ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(2)

リンダーホーフ城(5)
2日目

「狂王」の夢(その1)

 朝8時、ミュンヘン駅前に行き、そこから大きな2階建てバスに乗る。バイエルンの名所を巡る1日ツアーバスである。バスはしばらく市街地の中を走ると、市街の南西部からアウトバーン95号線に乗ってさらに南西に向かう。アウトバーンはシュタルンベルク湖の手前で二手に分かれ、このバスは湖の東側を南下して行く。

 ちょうどそのタイミングで車内に放送が流れる。放送とは言っても、乗客は多国籍の人達だから、おのおのがヘッドホンを使って各国語の案内放送を聞くのである。放送の内容はバイエルン王・ルートヴィヒ2世について。私もしばしこの放送に耳を傾けることにしよう。なぜなら、この1日の大半は、彼の「作品」を見ることに費やされるのだから。

 1864年にバイエルン王として即位したルートヴィヒ2世は、当初は政治にも熱心に取り組んだらしいが、やがて芸術の世界にのめり込むようになる。作曲家・ワーグナーを庇護した他、メルヘンチックな数々の豪勢な建築物を建てた。さらには奇矯な言動も多かったと言われている。普墺戦争の敗戦による多額の賠償金と、王の浪費に頭を抱えたバイエルン政府は、ついに1886年、ルートヴィヒ2世に禁治産者宣告を下して廃位に追い込み、逮捕する。
 逮捕されたルートヴィヒ2世は、シュタルンベルク湖畔のベルク城に監禁されるが、その翌日、付き添いの医師と共に、シュタルンベルク湖上で謎の死を遂げたのだった。

 そうこうしているうちに、車窓にはアルプスの山々が遠くに見えるようになる。アウトバーンには制限速度がない。どうがんばっても時速100km程度しか出ないこの大型バスの脇を、乗用車がものすごいスピードで駆け抜けて行く。
 隣を走る乗用車に比べるとつい遅く感じてしまうが、それでも時速100kmは出ているのだから、遠くに見えていた山々は次第に近づいて来る。そしてアウトバーンも終点となり、谷間を進む一般道に合流する。谷間を流れるロイザッハ川のすぐ脇には鉄道が通っている。これはミュンヘンから南下してオーストリアのインスブルックへと向かう路線である。
 オーバーアウの町に入り、駅を過ぎた辺りでバスは右折する。きつい勾配をひたすら上り、大きなヘアピンカーブを通過する。ここはエッタール峠といって、古来から銀を運ぶ街道の途上にあり、交通の難所として知られていたそうだ。峠を越えると、開けた高原となる。高原の道をしばらく進むと、三叉路となる。ここを左に進むと、また上り坂となる。その坂の途中でバスは右折し、駐車場に入って停車する。

 駐車場からしばらく歩くと木造の建物が見える。ここが入場券売り場で、ここからさらに進むと、小さいけれど白く美しい建物が目の前に現れる。これこそ、ルートヴィヒ2世が建てた城の一つ、リンダーホーフ城である。
 ここでツアー客は言語別にいくつかのグループに分かれ、グループ毎に城内に入って行く。言語別に分かれた理由は簡単で、城内の各部屋ではスピーカーで一斉に案内放送を流すためだ。各部屋の内装の豪華さもさることながら、多くの訪問者は厨房とルートヴィヒ2世の食堂を行き来するエレベーターに度肝を抜かす。大の人嫌いだった王は、食堂に召使が入ることすら好まず、あらかじめ配膳されたテーブルをこのエレベーターで運ばせたのである・・・。
 城館の目の前には神話世界の登場人物(たいていは人間じゃないけれど・・・)を配した噴水が広がっている。広大な城の敷地には、他にも「ヴィーナスの洞窟」や「ムーア風のキオスク」といった見どころがあるのだが、時間がないために見学できない。アルプスの美しい景色に囲まれたこのメルヘン世界の主を羨みながら、次の場所へと急ぐ。

 バスは山道を下って行き、先ほど通った三叉路を左折する。道はさらに下り坂となって山の麓・オーバーアマガウの村に入る。オーバーアマガウは2つのことで有名である。1つは民家の壁に描かれた壁画だ。キリスト教や童話を題材にしたものが多い。さっそく村はずれにある有名な「作品」、『赤ずきん』と『ヘンゼルとグレーテル』を見る。と言っても、バスの窓からちらっとのぞいた程度だ。
 バスはそのまま村の中心部に向かうのだが、狭い道を次々に曲がってゆくため、既に方向感覚がわからなくなってしまった。結局、バスはとある売店の前で停車し、私達はここから村の中を自由に散策することになる。ここでは、観光客相手の商店レストランはもちろんのこと、一般の民家の壁にも様々な壁画が描かれており、歩くだけでも面白い。私は先ほど見た『赤ずきん』と『ヘンゼルとグレーテル』をもう一度見ようと歩いて行ったのだが、詳しい地図がない上に、方向感覚がわからなくなっていたため、壁画の家が途切れた辺りで安全を考えて引き返してしまった。後からわかったことだが、進んだ道をもう少し歩いていれば、『赤ずきん』と『ヘンゼルとグレーテル』の家にたどり着けたのだが・・・
 私達の集合場所は、村の中心部にある大きな劇場の前。このキリスト受難劇場こそ、オーバーアマガウを有名にしているもう一つのものだ。ここでは10年に一度、村人総出で5ヶ月もの間キリストの受難劇を演じる。次回の上演は2020年だそうだ。日本人にはなかなかピンと来ない題材だが、ヨーロッパをはじめ世界各国から見物客が押し寄せるらしい。
 こうして無事にバスに乗った私達は、次の場所へと移動して行く。

続く
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