ヨーロッパ横断鉄道旅行-第14弾(ニース→マルセイユ)(3)

ディーニュに到着した列車
(支線)アントルヴォー→ディーニュ・レ・バン

 列車はアントルヴォーに停車している。本来なら「私はここで下車する」と書きたいし、あの砦に登ってみたいところなのだが、日程の都合上プロヴァンス鉄道に使えるのは1日のみ。ここで下車してしまうと終点のディーニュ・レ・バンまで行ってニースに戻ってくることは難しくなってしまう。というわけで、泣く泣く列車に乗り続ける。

 列車はアントルヴォーを発車。ヴァール川の峡谷を上流へと進む。やがてヴァール川とは分かれて、その支流の峡谷を進む。11時23分、アノに停車。そこそこ大きな集落で、ピュジエ・テニエ始発のあのSL列車の終着駅もここである。
 勾配はますますきつくなり、トンネルも断続する。11時32分、ラ・フュージュレに停車。発車すると、ほぼループに近い大きな連続カーブを抜けて、標高はさらに高くなる。岩山の上に何か建物が見える。11時38分、メアイユに停車。

 列車は次のPeyrseqを通過すると、ここから長いトンネルに入る。トンネルを抜けるとまた峡谷だが、これはヴェルドン川といい、ヴァール川とは別の流れである。トンネルの間で分水嶺を越えたようだ。11時47分、トラム・オートに停車。ここで対向列車を待ち、11時56分に発車。今度は峡谷を下って進む。峡谷は次第に開けて、森林が辺りに広がる。12時8分、サンタンドレ・レ・ザルプに停車。川はこの辺りで湖となり、町にはホテルやキャンプ場も多いようで、下車する人も多い。私も降りてみたくて仕方ないのだが・・・。

 列車はそんな景色には脇目もふらず、川とは分かれて再び山を登り始める。長いトンネルの途中までは上り坂であったが、途中から下り始める。12時15分、モリエ。12時27分、バレームに停車する。バレームの辺りにもキャンプ場があり、多くの乗客が降りる。列車はアッス川の蛇行する川筋に沿ってどんどん下る。12時37分、ショドン・ノラントに停車。近くには切り立った岩山も見えるが、川の周辺は比較的平坦になっている。12時43分、シャブリエールに停車。列車はアッス川とも分かれて、網の目のようになった細かい川筋の中を縫うように走る。12時50分、メゼル。13時ちょうど、ゴベールに停車。
 辺りはいよいよ平坦になり、大きな町が現れる。列車はブレオーヌ川を渡って右に曲がると、西から来た謎の線路と合流し、ついに終点のディーニュ・レ・バンに到着する。13時5分。約3時間40分という、普通列車にしては長い旅路であった。ディーニュ駅はホームは片側1面のみの小さな駅だが、構内はけっこう広い。西から来た謎の線路は、貨物線なのかもしれない。

 せっかくなので、ディーニュの街を少し歩いてみることにする。ブレオーヌ川に架かる花で彩られた橋を渡って少し見渡してみる。ディーニュは温泉保養地として知られているが、ホテルなどは多くあるものの、日本の温泉街とは全く雰囲気が異なり、日帰り温泉施設や娯楽施設があるわけでもなく、ちょっと来ただけでは何もすることがない・・・。もう少し歩けばレストランもあったようだが、がっつり食べる時間的余裕もなく、かと言ってファーストフードを食べるためにあまり歩く気も起らず・・・。ニース行きの列車に乗るために、すごすごと駅に引き返すのであった。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第14弾(ニース→マルセイユ)(2)

ディーニュ行き列車
2日目
(支線)ニース→アントルヴォー

 空はよく晴れている。国鉄線のニース・ヴィル駅を通り越して少し北へ歩く。朝市であろうか、街の一角に果物・野菜・花が並べられている。
 徒歩数分で、もう一つのニース駅にたどり着く。こちらのニース駅は人の出入りも少なく、うっかりするとそれと気づかないかもしれない。「プロヴァンス鉄道」という、その名もゆかしい鉄道の起点である。駅前には沿線のマップが描かれている。ホームにはパンタグラフのない2両編成の列車が既に入線、と言うか、1日にわずか数往復の運転であるから、運転していない時間はホーム上で待機しているに過ぎないのであろう。このような路線である以上、電化されているはずもなく、動力はディーゼルである。だが、デザインを見る限り、まったくローカル線らしくない洗練されたものだ。何だかプロヴァンスの矜持のようなものさえ感じる。

 前回の旅で乗ったタンド線と同様、このプロヴァンス鉄道(地元ではCP線と略されるようだ)もまた山へ向かう。それを暗示するかのように、線路の先には丘陵が見える。

 タイトルに示したように、この路線は私が西へ西へと向かうための路線(これを「本線」と呼ぼう)ではないのだが、全長約150kmにもおよぶため、1回の記事では書ききれない(もったいない)ので、これから数回に分けて書こうと思う。

 さて、9時頃になって列車の扉が開き、乗車可能になる。ホームで待っている人も少なく、余裕で1番前の座席に着く。発車前には既に検札も済んでしまう。言い忘れたが、この列車はプロヴァンス鉄道のもう一方の起点、ディーニュ・レ・バンへ向かう。

 9時26分、いよいよ発車する。ホームを離れた瞬間、線路は1本に収束する。次の駅Gambettaを通過(どうやら主要駅以外は、乗客がリクエストまたはホームに待っている人がいる場合を除くと通過する、いわゆるリクエスト・ストップである)すると、駅からも見えた丘の下のトンネルを抜ける。その後も断続してトンネルが続く。
 9時33分、Le Madeleineに停車。ここで初めての対向列車待ち合わせとなる。その後もトンネルが断続し、ニースの西を流れるヴァール川のほとりに出る。9時40分、Lingostiereに停車。ここで一気に満席になる。駅の構内には車両基地もある。しばらくはヴァール川沿いの開けた平地を北上する。その後も次々と乗客が乗ってくる。

 やがて平地は徐々に狭まる。特に川の西側は険しい山になっていて、その中に村が点在しているのが見える。10時3分、Levens Plan du Varに停車。
 対向列車を待つこと12分、10時15分にようやく発車。ここからは平地はなくなり、峡谷となる。小さなカーブが続くため、列車もよく揺れる。10時19分、La Tinee Arretに停車。トンネルを抜けると、ヴァール川に沿って今度は西に進む。

 10時34分、Villars sur Varに停車。村は丘の上にある。Touet sur Varを過ぎると、少し峡谷が開ける。やがて少し大きな町、ピュジエ・テニエに停車、10時55分。隣のホームにはトロッコ車両そしてSLが停車している!これは、週末に運行されるというピュジエ・テニエーアノ間のSLなのであろう。これに乗るためか、大勢の乗客がピュジエ・テニエで降りてゆく。
 列車はさらに峡谷を西に向かう。岩山の上に大きな砦が見え、麓には岩に溶け込みそうなが見える。11時4分、アントルヴォーに停車。

続く
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CP線ニース駅


アントルヴォー駅

ヨーロッパ横断鉄道旅行-第14弾(ニース→マルセイユ)(1)

ニース空港
1日目

潮風

 パリのシャルル・ド・ゴール空港を飛び立った飛行機の中で、私はぐっすり眠っていた。自宅を早朝に出発してパリ行きのフライトに滑り込んで以来、ろくに寝ていなかったからだ。
 目が覚めると、もう地中海だ。飛行機はゆっくり左に旋回する。やがて高度が下がり、見覚えのある、あるいは地図でよく見た景色が現れる。ヴィルフランシュ、サン・ジャン・カップ・フェラ、プロムナード・デ・ザングレ。いよいよ地上近くなり、プライベートジェットの駐機場が現れ、着陸。17時を過ぎたところだが、夏場のヨーロッパでは、日没にはまだ遠い。

 着いたのはニース空港の第2ターミナル。少々わかりにくかったが、バス乗り場を何とか見つけ出す。ニース・ヴィル駅行きの98番バスに乗る。前回の旅で買ったものの結局一度も使わなかったバスチケットがここで初めて役に立つ。
 バスはプロムナード・デ・ザングレを東に向かう。わずか1月前の凄惨なテロ事件の痕跡は、表向き姿を消し、通りは賑わっている。ビーチの向かいにはホテルやリゾートマンションが立ち並ぶ。バスは左折してガンベッタ通りに入り、今度は右折してティエール通りに入って駅前に到着する。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第14弾(ニース→マルセイユ)

はじめに

 ニース、カンヌ、マルセイユ。どう見てもポピュラーな旅のパッケージである(笑)。しかし極端な回り道をしない限り、ヨーロッパ横断ルートに組み込まざるを得ないのだから仕方がない。あえてイエールに立ち寄る気になったのは、私らしい旅にするための、ささやかな抵抗だったのかもしれない。

旅の時期
2016年8月

目次

    1日目
  1. 潮風


  2. 2日目
  3. (支線)ニース→アントルヴォー

  4. (支線)アントルヴォー→ディーニュ・レ・バン

ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(16)

ニース空港(T2)
9日目

散々

 いよいよ帰国する日となった。とは言え、フライトは午後だから、午前中までは観光する気で、その計画も立てていた。

 ホテルを出ると、ニース・ヴィル駅前のトラム乗り場の自販機で空港バスチケットを3枚も買う。その内訳は、こうだ。1.ニース・ヴィル駅前から市街西部にあるニース空港まで行く。2.空港で荷物を預けて、別の空港バスに乗り、市街東部にあるニース港に行く。ニース港からは周遊船もあるらしいので、それで観光。3.ニース港から、ニース空港に戻る。

 ところが、である。ニース・ヴィル駅前の空港バス乗り場で30分以上バスを待てど暮らせどバスはやって来ない・・・。これはおかしい。ということで、駅前のツーリストインフォに行って聞いてみる。すると、何と空港バスがストライキしていたのだ・・・。これで観光の計画とバスチケットが全て吹っ飛ぶ。それにしても、バスチケットはなぜ普通に売られていたのだろう?

 思わず頭を抱えたくなるが、今はその暇もない。アクセス手段も限られた状況では、とにかく確実に空港に行かねばならない。ツーリストインフォで教えられた通り、駅前から西に歩いてガンベッタ通りに出て、そこで空港近くを通る路線バスを待つ。このバスもなかなか来ないが、他の系統の路線バスはやって来るので運行されているのは確実であろう。
 しばらく待って、バスがやって来た。私と同じく空港に向かうであろう人々も大勢乗り込むので大変な混雑だ。バスは通りを南下すると、海岸に出て右に折れる。この海岸通り、プロムナード・デ・ザングレはきっと良い眺めに違いないが、この人込みの中では十分に見ることもかなわない。
 やがてバスは、空港最寄りのバス停に停車。私を含めて大勢の乗客が降りる。だが、ここはあくまで「最寄り」であって、空港の敷地内ではない。だから階段を下りて車道の下をくぐり、また階段を上ってしばらく歩かねばならない・・・。

 こうして、ようやくニース空港の第1ターミナルにたどり着く。私のフライトもここからだから、これで一応めでたしなのだが、チェックインまでにはまだ時間がある。暇になったらなったで苦しむのが人間の習性らしい。ゆっくり食事でもしたくなる。ところが、第1ターミナルにはあまり施設がないのだ・・・
 そこで、荷物を抱えたままより大きな第2ターミナルに移動する。両ターミナルの間には無料のシャトルバスがあるから金はかからないものの、いったい何をしているのか自分でも不思議になってしまう。
 第2ターミナルには、期待通りのレストランがあった。フランスワインを飲みながらゆっくりと過ごす。

 昼過ぎ、ほろ酔い気分で第1ターミナルに戻る。数時間後には地中海の空の上でまどろむことを夢に見ながら。

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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(15)

カジノ・ド・モンテカルロ
8日目
一八

 この日も快晴だった。8時50分、ニース・ヴィル駅からマントン行き列車で出発。ヴィルフランシュの美しい入り江の景色を見ながら進む。カップ・ダイユを過ぎると長いトンネルに入り、9時5分、トンネルの途中でモンテカルロに停車。私はここで下車する。
 ホームトンネルをよく見ると、壁や天井にランダムに過剰なくらい照明がついていてとても明るい。何だか銀河の中心に来たような気分だ。モンテカルロという街はこんなところから、その演出を始めているのかもしれない。
 長いホームの両端に出口がある。まずはマントン側、すなわち東口から出てみよう。外に出て驚くのは、歩道が少なく、歩くにはちょっと辛い・・・。歩道が少ないのは街の構造上の問題もあるだろうが、すぐに別の理由に気づく。実はF1グランプリ(2016年5月)の開催が間近に迫っていたのである。このため、あちこちの歩道が閉鎖されて見物のための桟敷が作られていた。

 それでも何とか道端を歩いたり渡ったりして、港にたどり着く。そこは、小さなヨットから大型客船までが集う、さながら「船のサービスエリア」のようになっていた。
 港から歩道のついたトンネルがあるので歩いてみる。ここには初めて来たのに、どこかで見たような景色だ。もしかすると、それはテレビゲームのカーレースのワンシーンだったのかもしれない。
 トンネルを出て丘を上ると、何やら宮殿のような建物がいくつも建ち並ぶ。その中でもひときわ大勢の人々が出入りしている建物がある。それこそが、カジノの殿堂?カジノ・ド・モンテカルロであった。大して金はなくとも、一か八かの勝負をする気がさらさらなくとも心配はない。このカジノは見学できるのだ。10ユーロ(約1300円)払って中に入る。外観だけではなく、内装もやはり宮殿のようだ。ATMが何台も置いてあるのが、妙にリアリティがある。壁の貼り紙のよると、掛け金は1000ユーロ(約13万円)単位だそうで・・・。ルーレットやポーカーテーブルだけでなく、スロットマシンもあるのだが、最新式?機械の真っ黒なボディが、このクラシックな「宮殿」の内装に不思議なくらいしっくりくるのだ。

 夢(悪夢?)の空間を抜けだして、またリアルな空間を歩く。港の向こう側(南側)の丘を上る。城壁があるのだから、普通の場所ではない。そこはモナコ大公の住む本物の宮殿であった。
 宮殿に入る前に、この丘からの眺めを堪能しよう。北を見れば、先ほど寄ったモナコ港を眺めることができる。南を見れば、そこにはヨットハーバーがある。
 そうこうしているうちに、宮殿前に人々が集まり始めた。12時を前にして、衛兵の交代式が行われるのである。まず、新たな衛兵が太鼓を打ち鳴らしながらやって来る。そして詰所で新旧の衛兵が交代すると、役目を終えた衛兵が同じく太鼓を打ち鳴らしながら出てゆく。
 式も終わり人々も解散したので、私も宮殿に入る。ランチタイムだから空いている?と考えたのが浅はかだったのか、意外に長蛇の列になってしまった・・・。この宮殿は小ぶりで、カジノのような見た目の派手さはないものの、コストをかけたのがよくわかるという意味でなかなか贅沢な室内の内装であった。

 宮殿の丘の上をそのまま西に歩くと、モナコの旧市街になる。この中心にあるのがモナコ大聖堂で、真新しい大きな絵画や装飾がみごとだ。その近くには海洋博物館がある。博物館といっても実際は水族館で、大勢の家族連れでにぎわっていた。
 旧市街から丘を下ってゆく。F1の巨大な桟敷(というか、もはやスタジアム化している)が見える。
 今度は駅の西口を目指して歩くが、地下鉄の駅と同様に看板だけが頼りで、しかもその看板が目立たないため、見つけるのに苦労する・・・。何とか駅にたどり着くと、14時40分着予定(実際は2分遅れ)のカンヌ行きに乗る。ニース・ヴィルには15時過ぎに停車。

 ニース・ヴィルの駅前からトラムに乗って南に進み、マセナ広場で下車する。この辺りはニースの旧市街で、オペラ座などの古くて由緒ある建物が並んでいる。

 いったんホテルに戻り、夕方再びニース・ヴィル駅に向かう。18時57分、ヴェンティミーリア行きの列車に乗る。19時20分、モンテカルロに停車。ここで下車する。今度は西口から出る。
 夕食をと思って駅前を探すが、フレンチレストランは少なく、イタリアンレストランが多い。というわけで、予想外に大盛りのスパゲッティを食べて、超満腹・・・。
 だが、夜わざわざモンテカルロに出てきた理由は食事だけではない(笑)。ということで、宮殿の丘に向かう。日没にはまだ少しあるので、ベンチで待つ。辺りにはカメラや三脚を持った人が何人もいる。皆、ここからの夜景を狙っているのだ。
 21時、ついに日没になり、辺りが真っ暗になった。宮殿にも照明が灯され、西側の山モナコ港ヨットハーバーがそれぞれ夜の装いを現し始める。この灯の下では、巨額の金を巡って大勝負が繰り広げられているのだろう。
 いつまでも夜景を眺めていたいが、この地に泊まっていない(モナコのホテルはとても高いのだ・・・)以上はシンデレラと同じく時間は気にしなければならない。ということで、靴が脱げそうなくらい急いで、駅には21時30分過ぎには着いたのに、次のニース行きは何と22時13分・・・。この銀河のトンネルの中でwifiが使えたのがせめてもの幸いである。
 22時過ぎ、ニース行きの列車が早くも入線。モンテカルロ始発だったのだ。そして予定通りに22時13分に出発。22時30分、ニース・ヴィルに到着。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(14)

タンド鉄道橋
7日目
タンド線

 快晴だ。しかし、この日は海ではなく、山に向かう。ニース・ヴィル駅の一番はずれのホームに列車は入線していた。パンタグラフはなく気動車、3両編成。車内は座席が1列・2列に並んでいて、一人旅にはうれしい。車両の側面には"Train des merveilles"と書かれている。"merveilles"は、この列車が向かうメルヴェイユ地方を指しているのだが、フランス語で"merveille"は「驚異・奇跡」という意味でもあるので、「奇跡の列車」とも読める。さて、今日の旅にはどんな「奇跡」が起こるのやら。

 9時24分、列車が発車する。最初は東に向かうのだが、すぐに入るトンネル内で、ヴェンティミーリアへ向かう線路と早くも分岐して北に向かう。トンネルを抜けるとパイヨン川を渡り、大きな操車場に入る。操車場には気動車用の軽油?スタンドがあったりして、面白い。
 列車はその後もパイヨン川に沿ってニースの郊外を北に進むのだが、意外にトンネルが多い。9時37分、ドゥラップ・カンタロンに停車。対向列車を待つ。ここからはもう単線区間になるのだ。9時40分に発車。9時43分、ハルト・ド・フォンタニルに停車。近くに高校があるらしく、学生が一斉に下車する。しばらく進むと、山登りが始まる。ディーゼルエンジンが唸りを上げる。9時52分、パイユに停車。川は渓谷になる。谷の町レスカレーヌに停車。ちょうど10時だ。

 短いトンネルを抜けて、10時3分にトゥエ・ド・レスカレーヌに停車すると、今度は長い長いまっすぐなトンネルに入る。スピードは出るが、その分よく揺れる・・・。ようやくトンネルを抜けると、そこには渓谷のほとりの美しい街並みがあった。10時12分、ソスペルに停車。きっと観光地なのであろう、多くの乗客が降りてゆく。

 列車はしばらくこの渓谷に沿って走るが、またもや長くまっすぐなトンネルに入る。抜けると、これまた別の渓谷が現れる。ロワイヤ川である。そして、こちらの車窓からはわからないが、もう一本の線路が山の上方に並行するように走っている。やがて、渓谷のほとりにやや大きな美しい街並みが現れ、並行していたもう一本の線路といつの間にか合流する。10時27分、ブレイユ・シュル・ロワイヤに停車。あのもう一本の線路とは、ヴェンティミーリアからロワイヤ川沿いにやって来たものなのだ。

 列車はロワイヤ川に沿って進むが、標高がぐんぐん上がっている感じがする。10時44分、フォンタン・サオルジュに停車。美しい谷間の駅だ。列車はさらに渓谷を上る。しばらくすると、列車の左手に別の線路が現れる。どこの路線か?と思うが、そうではない。これは「未来」の線路なのだ。
 そうこうしているうちに、列車は左手に向かって川を渡り、トンネルに入る。トンネル内なので車窓からはまったくわからないが、トンネル内で線路は大きな円を描く。そしてトンネルから抜けると、渓谷を右手に見下ろす。そしてその右側には先ほど列車が通っていた、すなわち「過去」の線路が見える。つまり、列車は今「未来」の線路を走っている。線路のループ構造が、鉄道ファンのみならず多くの人々を惹きつける理由の一つは、時間のずれを、空間のずれとしてはっきりと見せてくれるからなのかもしれない。

 やがてループ区間も過ぎ、渓谷はますます標高を上げる。もはやループにはならないものの、線路は大きなS字を描きながら山を登り続ける。11時6分、サン・ダルマ・ド・タンドに停車。ここまで相当な標高差を上り詰めてきた列車はかなりお疲れであろうが、休む間もなくS字カーブを上る。11時13分、ラ・ブリギュに停車。そしてS字カーブのトンネルを抜けると、小高い丘に小さな塔の建ったが姿を現す。11時20分、ついに列車の終点であるタンドに到着する
 ニースから約2時間も山奥に来たのだから、行き止まりなのかと思いきや、そうではない。線路はさらに北に伸びており、イタリアのクーネオに通じている。クーネオからはさらにトリノを目指すこともできる。とは言え、旅の時間も限られているので、今回はタンドで折り返すことにしよう。

 タンドの駅前からちょっと散策する。ロワイヤ川沿いの町はそれほど大きくなく、すぐに町はずれに行き着いてしまう。もちろん、あの塔へは距離的には大したことがなさそうだが、上り坂がきつそうなので、今回はやめておく。
 町をぶらぶらしていると、いつの間にか線路の近くに来ていた。コンクリート製?のアーチ橋である。私は時計と時刻表を取り出して思わず見比べる。あと10分か・・・、暑いので早く涼しいところに行きたいが、我慢する。そして、ついにその時が来た。私が先ほど乗ってきた列車が、ニースへと折り返す。そのタンド駅を出発したばかり列車が、アーチ橋をゆっくりと渡ってゆく。こんな時は、やはり電線やパンタグラフのない気動車の方が美しい。

 何かをなし終えた気がしてほっとしたのか、お腹が空いてきた。よく見ると、タンドには町の大きさに比べてレストランが多い。喉も渇いていたので頭の中がワインでいっぱいになってしまい(笑)、ワインリストを店の前に掲げるレストランにホイホイと惹きつけられる。しかし、本能に基づく?店の選択は誤っていなかった。コルクを抜かずにワインを注げるという装置(最近は日本でも手に入るらしいが、2016年当時は入手できなかったはず)に関心しつつ、白とロゼと料理を堪能。
 腹ごなしに、町はずれにあるメルヴェイユ博物館に行く。地元の考古学博物館で入場料は無料だが、ディスプレイのやり方など、意外に凝っている。

 駅に戻る。14時30分過ぎ、ニースからやって来た列車が到着。これが折り返してニース行きになる。
 14時47分、ニース行き列車が発車する。S字カーブのトンネルを下ってラ・ブリギュ、サン・ダルマ・ド・タンドに停車する。穏やかなロワイヤ川の流れは、この辺りから急になってくる。

 そして、あのループ区間に差し掛かる。今度は「未来」が下の方に見える。往きには見ることができなかったが、線路の上にある山々の威容には心打たれるものがある。こうして列車はループトンネルを抜けて山を下る。

 15時24分、フォンタン・サオルジュに停車。列車はさらに渓谷を下る。この区間は幹線道路も並走しているが、線路は道路よりも高い位置にあるので、やはり眺めがよい。
 15時38分、ブレイユ・シュル・ロワイヤに停車。時間があれば、この町にも降りてみたい。

 ヴェンティミーリアへ向かう線路と分かれると、列車は長いトンネルを抜けてソスペル、さらに長いトンネルを抜けて16時7分にレスカレーヌに停車。渓谷はパイヨン川のそれに変わる。16時23分、ハルト・ド・フォンタニルに停車。今度は学生が一斉に乗車する。パイヨン川を渡ると、16時27分にドゥラップ・カンタロンに停車。そして南に進むと、最後にヴェンティミーリアから来た線路と合流してニース・ヴィルに到着する。16時40分。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(13)

ヴィルフランシュ駅
海鉄

 ロクブリュヌの中世の村から山を下りて駅に戻る。11時57分、予定よりやや遅れてニース行きの列車が到着したので、これに乗る。車窓はトンネルの黒または海の青で染められる。
 12時20分、ヴィルフランシュ・シュール・メールに停車。私はここで下車する。「シュール・メール」(海に面した)の名の通り、駅の中から海が見える。ヴィルフランシュは、東のサン・ジャン・カップ・フェラという小さな半島と西のニースに挟まれた入り江の奥にある。ニース・ヴィルからわずか2駅にもかかわらず、とても静かな(まだ夏のシーズンに入る前という事情もあろうが)海辺の村である。

 まずは西側の海岸を歩く。海水浴客もいるにはいるが、まだそれほど多くはない。だからランチタイムにもかかわらず、海辺の飲食店はガラガラだ。高級店はランチタイムでもびっくりするくらい高いので、「軽食」も提供しているカフェに入る。ところが、「軽食」たるカルボナーラがびっくりするくらいおいしい!
 海岸に出て入り江の奥を眺めると、そこにはまずビーチがあり、その上に線路がある。その線路の上を列車がちょうどヴィルフランシュに停車する。海岸リゾートと鉄道がみごとに溶け合う景色だ。

 今度は駅の裏手に回って坂を上る。山の中腹を通る幹線道路に行くためだ。を上から眺める。青のグラデーションを線路が囲む。こんな路線なら毎日でも乗りたい・・・。

 幹線道路に出ると、バス停に向かう。そこから81番の市バスに乗る。バスは、東のサン・ジャン・カップ・フェラに向かう。ところが、大勢の乗客が降りるのにつられて、目的地の1つ手前のバス停で降りてしまった・・・。が、結果的には美しい海と瀟洒な別荘の数々を歩きながら眺めることができたので良かったのかもしれない。
 しばらく歩くと、こうした別荘群の中でもおそらく「群を抜く」別荘に行き着く。それがロスチャイルド邸である。かつてヨーロッパ有数の富豪であったロスチャイルド家の別荘らしく、優雅な部屋の数々と庭園には感嘆するしかないが、それでもヨーロッパ諸侯のそれに比べるとつつましく見えてしまうのは、諸侯とも取引の多かったロスチャイルド家の「遠慮」だろうか?喉が乾いたので、喫茶室で一休み。束の間のひと時、大富豪気分?でヴィルフランシュ湾を眺める。

 帰りはロスチャイルド邸のすぐそばにあるバス停から、81番の市バスに乗る。16時を過ぎたところだが、もう夕方のラッシュ?らしくバスは非常に混んでいる。さらに道路も渋滞してくる。
 というわけで、ヴィルフランシュ駅近くのバス停で降りるつもりだったが、その手前のバス停で降りた。そして、これがまた当たる。西日がヴィルフランシュ湾の西側を照らす時刻だったから、そこを上から眺めるには良いタイミングだったのだ。そして、トンネルとトンネルの間の線路と駅の姿もよく見える。

 16時56分、名残惜しい気持ちでニース行きの列車に乗る。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(12)

ロクブリュヌ城から東側を眺める
6日目
息切

 天気は昨日とは打って変わって快晴。こんな日には、一刻もじっとしていられない。8時に出発。
 ニース駅の券売機で切符を買う。まずはローカル列車専用の券売機へ。画面こそ今風だが、操作は全てダイヤルで行うという何ともデジアナ融合なインタフェースなのである。このダイヤルの操作は慣れないと非常に難しい上に、駅を指定する前に割引の種類がたくさんあって、該当するものをまず選択しなければならないので(フランス国民ではなく、いわゆる「生産年齢」の範囲内にいる人であれば、この種の割引には全く該当しないのだが・・・)、すっかり面喰ってしまう。仕方なく、特急の切符も変える「高級な」券売機に行ってみる。こちらはさすがにタッチパネルで英語対応もしているので便利だ。
 ニース駅のホーム番号は1,2・・・ではなく、A, B...Gとなっていて、他の駅とは変わっている。理由はわからないが。

 8時50分過ぎ、マントン行きの快速列車が入線する。どっと人が乗り込むのだが、2階建てでキャパシティが十分なため、何とか座ることができる。列車は予定より5分遅れの8時55分に出発する。海も昨日とは打って変わって真っ青だ。この青い海を写真に収めてみたいのだが、トンネルが断続しているせいもあって、なかなか難しい・・・。列車は目的地であるロクブリュヌ・カップ・マルタンを通過。トンネルを抜けると後方にマルタン岬が現れる。ここでようやくまともな写真が撮れる。9時25分、カルノレに停車。ここで降りる。
 ここで約30分ほど待って、9時52分に反対方向のニース行き普通列車に乗る。再びトンネルを通り、9時54分にロクブリュヌ・カップ・マルタンに停車。ここで降りる。ちなみに、「カップ」とは英語の"cape"と同じで「岬」のことであり、カップ・マルタンとはマルタン岬のことなのである。
 数分後、ニースからの普通列車が到着する。それなら、最初からこっちに乗れば運賃も安くついたし(切符にはカルノレ経由の運賃がもちろん加算されている)良かったと思ったが、時すでに遅し。切符を買うときによく確認すべきなのである。

 ロクブリュヌの町は、この辺りの町と同様に海に面した山の斜面に作られている。私はこの斜面をひたすら登っていくのだが、想像以上に傾斜がきつい・・・。階段も多い。こうして息を切らしながら登り続けること50分。たどり着いたのは、ロクブリュヌの旧市街。というより、中世以来の村、と呼ぶのが正しいようだ。
 坂道を登りきって疲れ果てていた私は、その中世の佇まいに感動するよりも、狭くて細い坂道を見て、さらに息苦しくなってしまった(笑)。そしてどこか開けた場所を求めて彷徨う。
 村の中心部に城があった。だいぶ朽ち果ててはいるが、が残っている。その塔の上に登ると、そこにはまたもや息の止まりそうな光景が待っていた。東はモナコ方面正面は村の全景とマルタン岬。これらを説明するのに言葉は不要である。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(11)

ニース・ヴィルに到着
ヴェンティミーリア→ニース

 早々にホームを離れると切符売り場に向かう。予想通り、ここではニースまでの切符を買うことができた。既にニース行きのSNCF(フランス国鉄)の列車は既に入線しているし、出発まで時間もないので、また早々にホームに向かう。

 16時35分、ニース行き列車が出発する。各車両は半分が2階建てになっていて、意外にキャパシティがある。このことは、後日実感することになるだろう。
 列車はすぐにロイア川を渡ると、ヴェンティミーリアの旧市街が丘の上に見える。その丘の下のトンネルを抜けて海岸を走る。だが、空が曇っているのと、トレニタリアの列車以上にSNCFの列車の窓が汚いため、写真を撮っても意味がないほどだ・・・

 列車は、気づかないうちに国境を越え、16時44分にフランスのマントン・ガラヴァンに停車。ついにフランスに足を踏み入れたのだ。警官が車内を巡回するところが、唯一国境の駅らしさを感じさせる。駅の周辺はリゾート地の雰囲気に満ちており、海岸と反対側の丘の斜面には上まで街並みが続く。
 列車はマントンの市街地の中を通り、16時50分にマントンに停車。次の駅カルノレを出ると真ん前に丘(マルタン岬)が立ちはだかるのだが、この丘にも街並みが上まで続き、まるで巨大な屏風のように見える。列車は丘の下のトンネルを抜ける。

 16時58分、ロクブリュヌ・カップ・マルタンに停車。この駅については、いずれ書くことになるだろう。しばらくすると、長いトンネルに入る。そしてトンネルの中で駅に停車。17時4分、ここがあのモンテカルロである。この駅についても、いずれ書くことになるが、ここではサンレモで感じたような驚きや感慨があったことだけを記そう。
 ようやくトンネルを抜けると、17時9分、カップ・ダイユに停車。ここからは海岸がなくなり、断崖とトンネルが交互するようになる。17時17分、ボリオ・シュール・メールに停車。造船所のある港、そして沖に大型客船が停泊する景色が素晴らしいが、先に述べた事情で良い写真が撮れなかったのが残念だ。

 列車は半島であるサン・ジャン・カップ・フェラを横切って、入り江の奥にあるヴィルフランシュ・シュール・メールに停車、17時20分。この駅についても、いずれ書くことになる。
 ヴィルフランシュからすぐにトンネルに入り、抜けたところはもうニースの市街地である。17時23分、ニース・リキエに停車。そして列車は市街地を横切り、また小さなトンネルに入ると、右から来たタンド線(これについても、いずれ書くことになる)と合流すると、ついに終点のニース・ヴィル駅に到着する。17時30分。構内にはソテツらしい木も生えていて、南国ムード満点だ。駅舎はこの当時(2016年5月)工事中だったらしく、使用できる通路が限られていた。
 ホテルは駅前の狭い路地にあって、やや迷ったが、ようやくチェックイン。長い1日が終わる。

続く
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