ヨーロッパ横断鉄道旅行-第5弾(プラハ→ベルリン)(11)

サンスーシ宮殿(2)
8日目

憂い無き世界

 朝から少し曇り気味で肌寒い。地下鉄U7に乗り、シャルロッテンブルク駅へ。ここからS7に乗る。意外に混んでいる。
 次の駅はヴェストクロイツ。ここでベルリンの環状線と交差する。しばらく進むと、S3/S75が右手に分岐する。これらの路線はベルリン北西部のシュパンダウに向かう。そして列車はグリューネヴァルトに停車。後で知ったことだが、第二次大戦中、この駅から大勢のユダヤ人が強制収用所行きの列車に乗せられたそうだ。
 ここを出ると、グリューネヴァルトと呼ばれる広い森の中を突っ走る。森を抜けると小さな湖が次々と現れ、そして列車は終点のポツダム中央駅に到着する。ここまでの所要時間は約40分。

 もともと自転車を持ってきた人(ドイツでは都市のSバーンであっても、たいてい自転車を持ち込める)に加えて、ホーム上にもレンタサイクルがあるので、本当にたくさんの人々が自転車をかついで階段を上る光景は壮観ですらある。
 駅に着いてはみたものの、サンスーシ宮殿に向かうバス・トラムはどこから出ているのか、これらのチケットはどこで買えるのかという基本情報が目立つところに表示されておらず、さっぱりわからない・・・。以前も書いたように、この点で日本に勝る国はないのかもしれない。
 駅構内や周辺をしばらく歩き回って、ようやくチケット(ポツダム市内交通1日券)を買い、駅南口からトラムに乗る。だが、このトラムは宮殿には直接行かず、その近くで下車しなければならないのだが、よくわからないまま乗り過ごしてしまい・・・ようやく、ブランデンブルク門にたどり着く。
 ここから宮殿のある丘を登る。オベリスクを横目に見ながら坂道を上りきると、目の前に半円形の柱廊が現れる。これがサンスーシ宮殿の本体だ。「宮殿本体」とわざわざ書いた理由は、いずれわかるだろう。

 宮殿本体内にあるチケット売り場には、早くも長蛇の列。ここではドレスデン城ほどではないが入場制限を行っており、宮殿本体には指定された時間にならないと入れない。チケットを買ったのは11時過ぎだが、入場できるのは12時20分である。
 それまでの間、他の建物を見に行く。
 まず、宮殿本体東側にある絵画館へ。ここはその名の通り、宮殿の主・プロイセン王の絵画ギャラリーで、広い大広間の壁一面に巨大な絵画が隙間無く並べられている。しかもこれらは、ルーベンス、ファン・ダイクなどのフランドルの巨匠やイタリアの巨匠の作品なのだ。壁を見上げては、ため息をつく他はない。どういうわけか、混雑する宮殿本体に比べれば訪れる人は少ない。
 次いで、宮殿本体西側にある新館に行く。ここは宮殿のゲストハウスとして使われた場所なので、内装は宮殿本体よりは劣るようだが、それでも豪華な部屋の数々には魅了される。
 宮殿裏の巨大風車などを見た後、ようやく宮殿本体に入る。宮殿本体にも絵画ギャラリーがあるのだが、こちらはずっと狭い場所で、小ぶりな絵を間近で楽しむ空間であったらしい。建物中央にある、豪華な「楕円の間」はさすがに見るものを圧倒する。しかし、この宮殿全体で見て、これほどに行列を作る価値があるかどうかはわからない。

 フランス語で「憂いの無い」という意味のサンスーシ宮殿は、かの有名なプロイセンのフリードリヒ大王によって18世紀に建てられた。東西2.5kmにもわたる広大な庭園の各所に豪勢な宮殿が建っている。よって、宮殿本体を見たからと言って、それで終わりではない。
 宮殿本体からしばらく西に歩くと、オランジェリーと呼ばれる宮殿が現れる。その名の通り、もともとは植物を寒さから守るために建てられたものだが、そればかりではなく、この宮廷の女性達の住まいにもなっていた。豪華な内装の寝室や、複製だらけとは言え、イタリアの巨匠・ラファエロの作品を集めた巨大な広間には圧倒される。ドイツ語のガイドツアーでしか見学できないせいか、見学者は少ない。

 さすがに歩くのには疲れてきたので、宮殿内を東西に走る695番バスに乗って西に向かい、新宮殿に向かう。新宮殿の敷地は宮殿本体を上回る広さがあるようで、その一部はポツダム大学のキャンパスにもなっている。2012年5月時点では一部改装工事が行われており、チケットは屋外のテントで売られていた。宮殿本体のチケットを持っていても、上乗せ料金が必要である。ここでも入場制限があり、時間と入口(3箇所ある入口のうち、1箇所からしか入れない)が決められてしまう。
 新宮殿の部屋の数とその豪華さは、宮殿本体を優に上回る。天然の美しい石を一面にちりばめた「洞窟の間」や巨大絵画の架かる大広間、専用の劇場。18世紀当時、新興国であったプロイセンの巨大な財力と野心を感じずにはいられない。

 サンスーシ宮殿の全てを見られたわけではないが、ここでいったん切り上げ、695番バスに乗って東に戻る。アレー通りとライター通りが合流する辺りで下車し、今度は603番バスに乗って北に向かい、ハイリガー湖のほとりにある新庭園の一角で下車する。
 庭園に入ると、一見田舎家風の、しかし意外にしっかり造られた建物が現れる。これがツェツィーリエンホーフ宮殿だ。ここはプロイセン王国最後の皇太子・ヴィルヘルムの住居として建てられたものだ。だから、今まで豪勢な宮殿を見慣れた目から見ると地味だが、内部は思ったより広く、けっこうなお屋敷なのである。
 だが、そうした宮殿の由来よりも、一人の日本人としては、1945年7月から行われたポツダム会談の開催場所が、まさにここであったということの方が、はるかに気になる。宮殿内の会議室の広さは思ったより広く、内装は暗く、こげ茶色の木製の会議机が並び、荘厳な雰囲気すら漂っている。その中央には、米・英・ソの小さな国旗が立てられていて、今にもトルーマン、チャーチル、スターリンが出てきそうだ。あれから70年近くが過ぎたが、憂いの無い世界は実現できただろうか?

 帰りは603番バスに乗ってアインハルト広場まで行き、トラムに乗り換えてポツダム駅に向かい、S7に乗る。シャルロッテンブルクでは降りずに、その先のツォーで下車する。ここで地下鉄U2に乗り換えて1つ先のヴィッテンベルク・プラッツで下車する。地下鉄の駅というよりは、宮殿のミニチュア版のような建物だ。
 この近くにある老舗デパートKDV(カー・デー・ヴェー)に行く。食品売り場にはソーセージをはじめ、ドイツらしい飲食物がずらりと並んでおり、その場で飲み食いもできる。立ち飲みのビールバーで、何とチェコビールに出会った。まずはピルスナーを飲んだ後、チェコではついに飲めなかったブドヴァルを飲む。(さすがに、糖度の高いものは無かった。)ビールだけではもの足りないので(順序が逆だ(笑))、近くのインビス(軽食スタンド)でベルリン名物・カリーヴルスト(揚げたソーセージにカレー風味の味付けをしたもの)を食べる。

続く
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