ヨーロッパ横断鉄道旅行-第3弾(ブダペスト→ウィーン)(11)

美術史博物館(2)
6日目

栄華の名残

 朝、ホテルを出ると寒気が全身を包む。それもそのはずで、この朝の気温はたったの4度!早足でウィーン西駅の方へ歩き、駅前の地下鉄乗り場からU3に乗る。市街地の中心部に向かい、シュテファン広場駅で下車する。
 駅を出たところに巨大なシュテファン寺院が聳えていた。この当時(2011年5月)は外壁の工事中だったが、内部は見学可能だ。外は良く晴れているのに、寺院の内部にはあまり光が届かず、高い所にある天井がよく見えない。この薄暗さが荘厳さを演出しているのである。この寺院には北と南にそれぞれ高い塔があり、北塔にはエレベーターで昇ることができる。エレベーターを降りると、そこには鉄製の足場しかなく、ここから下を見下ろすと足がすくむ思いがする。だが、ここから見る寺院の塔や屋根は、背景の町の景色と合わさって素晴らしい景観をなしている。

 シュテファン寺院を出て、グラーベンという大通りを歩き、ペスト記念柱ペーター教会の前を通って道を左に折れ、コールマルクトという通りをまっすぐ進むと、いよいよ王宮が目の前に現れる。これが、オーストリア皇帝として約600年も君臨し続けてきたハプスブルク家の本拠である。
 門の中に入ると、何やら貴賓専用と思わしき小さな入口が見えるが、ここが王宮見学の入口なのだ。入ると、まずハプスブルク家の食器のコレクションを見る。金・銀製の食器や燭台、さらにはマイセンなどの贅をきわめた陶器が所狭しと並べられている。これは「過剰」という他はない。贅沢とは、ものを過剰に所有・消費することなのだということを改めて思い知らされる。

 何だかため息をつきたくなったところで2階に上ると、そこはシシィ博物館になっている。シシィとは皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の皇妃エリーザベトのことで、生前は政治の表舞台から遠ざかっていたため、人々の間であまり存在感がなかったが、1898年に暗殺されて以後、「悲劇の皇妃」として人気が上昇し、たくさんの伝記や映画が製作されるまでになった。ちなみに、旅を好んだエリーザベトがブダペストを訪れた際に立ち寄った展望台のことについては既に書いた通りである。
 ミュージアムショップでは、その人気にあやかってシシィグッズがたくさん売られている一方、この博物館ではシシィの「実像」と、その死後に作られた「伝説」の乖離について非常に冷徹な視点でとらえている。

 シシィ博物館の奥には、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世やエリーザベトの私室が続いている。フランツ・ヨーゼフ1世の部屋は、あの食器コレクションを見た後ではむしろ「質素」に思えるくらいだが、エリーザベトの部屋はそれなりに豪華であり、それぞれの性格や考え方を見る思いがして面白い。
 これらの部屋を抜けると王宮を出てしまうわけだが、出口は入口に比べるととても簡素で、王宮の訪問者は、ここではたと現実に帰るのだろう。ただ、現実に戻ったは良いが、王宮入口の賑わいに比べてあまりに寂しい所なので、自分がどこにいるのかわからなくなってしまうのは少し困ったものだ・・・。

 ようやく王宮の入口に戻り、門を抜けて広場に出る。広場の向かいのスイス門を抜けてスイス宮(かつてスイス兵がここに常駐していたことに由来)を通り、王宮博物館に行く。ここは入口がわかりにくいくらい地味だが、収蔵品は礼拝用品や王冠・武具など豪華絢爛なものばかりだ。
 再び広場に戻り、王宮の入口とは反対方向に進むと、右手にはさらに大きな広場、そして左手には新王宮と呼ばれる大きな建物が広がる。さらにまっすぐ進んでブルク門を抜け、王宮を後にする。

 王宮を出てリンクと呼ばれる環状道路を渡ると、マリア・テレジア広場がある。その名の通り、広場の中央にはハプスブルク帝国最盛期の女帝マリア・テレジアの像が聳えている。像に向かって右側には自然史博物館、そして左側には美術史博物館がある。両方を見学する余裕はないので、美術史博物館に行く。
 ここは宮殿などの再利用ではなく、初めから美術館として建てられたもので、建物自体も豪華絢爛であり、天井画も立派なものだ。もちろん展示されているコレクションも素晴らしい。イタリア・スペイン・オランダ・フランドルの名画がずらりと揃っているし、これらの名画が壁一面に所狭しと並んでいる光景は圧巻である。ここでは美術品が「過剰」なのだ。
 だが、すごいのは近代西洋の美術品だけではない。古代ギリシャ・ローマの遺物古代エジプトの遺物のコレクションも相当なものだ。

 またため息をついて外に出ると、既に夕方になっている。冷え込みが厳しくなってきた。あんなにスケールの大きなものを見た後では、寒さに煩わされるなど情けない気がするが、やはり上着の入手は切実な問題なのだ。王宮周辺の通りを歩いて服を探す。だが、リンクの内側、すなわちウィーンの旧市街は内外から人の集まる観光地であり、高級ブランドの店しか見当たらない・・・。
 上着を買うのはいったん諦めて、リンクをトラムで1周してみる。まずオペラ座の前から2番のトラムに乗る。トラムは旧市街の東側を回る。私はシュヴェーデンプラッツで下車する。なぜなら、この後2番トラムはドナウ運河を渡って北に行ってしまうからだ。シュヴェーデンプラッツからは1番のトラムに乗り換える。トラムは旧市街の西側を回って、国会議事堂やマリア・テレジア広場の前を通り、再びオペラ座に至る。1番トラムはここから南に行ってしまうので、私はもう一度2番トラムに乗り換えてシュトゥーベントーアまで行き、ここから地下鉄U3に乗り換えて西に向かう。

 ウィーン西駅の近くでようやく手ごろな上着を購入できた。さっきまではあまりの寒さに「旅を切り上げようか」とまで思いつめてしまったが、上着を着ただけで気分が一転して、がぜん旅を続ける気になった。気分など、いいかげんなものだ。

続く
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