ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(14)

タンド鉄道橋
7日目
タンド線

 快晴だ。しかし、この日は海ではなく、山に向かう。ニース・ヴィル駅の一番はずれのホームに列車は入線していた。パンタグラフはなく気動車、3両編成。車内は座席が1列・2列に並んでいて、一人旅にはうれしい。車両の側面には"Train des merveilles"と書かれている。"merveilles"は、この列車が向かうメルヴェイユ地方を指しているのだが、フランス語で"merveille"は「驚異・奇跡」という意味でもあるので、「奇跡の列車」とも読める。さて、今日の旅にはどんな「奇跡」が起こるのやら。

 9時24分、列車が発車する。最初は東に向かうのだが、すぐに入るトンネル内で、ヴェンティミーリアへ向かう線路と早くも分岐して北に向かう。トンネルを抜けるとパイヨン川を渡り、大きな操車場に入る。操車場には気動車用の軽油?スタンドがあったりして、面白い。
 列車はその後もパイヨン川に沿ってニースの郊外を北に進むのだが、意外にトンネルが多い。9時37分、ドゥラップ・カンタロンに停車。対向列車を待つ。ここからはもう単線区間になるのだ。9時40分に発車。9時43分、ハルト・ド・フォンタニルに停車。近くに高校があるらしく、学生が一斉に下車する。しばらく進むと、山登りが始まる。ディーゼルエンジンが唸りを上げる。9時52分、パイユに停車。川は渓谷になる。谷の町レスカレーヌに停車。ちょうど10時だ。

 短いトンネルを抜けて、10時3分にトゥエ・ド・レスカレーヌに停車すると、今度は長い長いまっすぐなトンネルに入る。スピードは出るが、その分よく揺れる・・・。ようやくトンネルを抜けると、そこには渓谷のほとりの美しい街並みがあった。10時12分、ソスペルに停車。きっと観光地なのであろう、多くの乗客が降りてゆく。

 列車はしばらくこの渓谷に沿って走るが、またもや長くまっすぐなトンネルに入る。抜けると、これまた別の渓谷が現れる。ロワイヤ川である。そして、こちらの車窓からはわからないが、もう一本の線路が山の上方に並行するように走っている。やがて、渓谷のほとりにやや大きな美しい街並みが現れ、並行していたもう一本の線路といつの間にか合流する。10時27分、ブレイユ・シュル・ロワイヤに停車。あのもう一本の線路とは、ヴェンティミーリアからロワイヤ川沿いにやって来たものなのだ。

 列車はロワイヤ川に沿って進むが、標高がぐんぐん上がっている感じがする。10時44分、フォンタン・サオルジュに停車。美しい谷間の駅だ。列車はさらに渓谷を上る。しばらくすると、列車の左手に別の線路が現れる。どこの路線か?と思うが、そうではない。これは「未来」の線路なのだ。
 そうこうしているうちに、列車は左手に向かって川を渡り、トンネルに入る。トンネル内なので車窓からはまったくわからないが、トンネル内で線路は大きな円を描く。そしてトンネルから抜けると、渓谷を右手に見下ろす。そしてその右側には先ほど列車が通っていた、すなわち「過去」の線路が見える。つまり、列車は今「未来」の線路を走っている。線路のループ構造が、鉄道ファンのみならず多くの人々を惹きつける理由の一つは、時間のずれを、空間のずれとしてはっきりと見せてくれるからなのかもしれない。

 やがてループ区間も過ぎ、渓谷はますます標高を上げる。もはやループにはならないものの、線路は大きなS字を描きながら山を登り続ける。11時6分、サン・ダルマ・ド・タンドに停車。ここまで相当な標高差を上り詰めてきた列車はかなりお疲れであろうが、休む間もなくS字カーブを上る。11時13分、ラ・ブリギュに停車。そしてS字カーブのトンネルを抜けると、小高い丘に小さな塔の建ったが姿を現す。11時20分、ついに列車の終点であるタンドに到着する
 ニースから約2時間も山奥に来たのだから、行き止まりなのかと思いきや、そうではない。線路はさらに北に伸びており、イタリアのクーネオに通じている。クーネオからはさらにトリノを目指すこともできる。とは言え、旅の時間も限られているので、今回はタンドで折り返すことにしよう。

 タンドの駅前からちょっと散策する。ロワイヤ川沿いの町はそれほど大きくなく、すぐに町はずれに行き着いてしまう。もちろん、あの塔へは距離的には大したことがなさそうだが、上り坂がきつそうなので、今回はやめておく。
 町をぶらぶらしていると、いつの間にか線路の近くに来ていた。コンクリート製?のアーチ橋である。私は時計と時刻表を取り出して思わず見比べる。あと10分か・・・、暑いので早く涼しいところに行きたいが、我慢する。そして、ついにその時が来た。私が先ほど乗ってきた列車が、ニースへと折り返す。そのタンド駅を出発したばかり列車が、アーチ橋をゆっくりと渡ってゆく。こんな時は、やはり電線やパンタグラフのない気動車の方が美しい。

 何かをなし終えた気がしてほっとしたのか、お腹が空いてきた。よく見ると、タンドには町の大きさに比べてレストランが多い。喉も渇いていたので頭の中がワインでいっぱいになってしまい(笑)、ワインリストを店の前に掲げるレストランにホイホイと惹きつけられる。しかし、本能に基づく?店の選択は誤っていなかった。コルクを抜かずにワインを注げるという装置(最近は日本でも手に入るらしいが、2016年当時は入手できなかったはず)に関心しつつ、白とロゼと料理を堪能。
 腹ごなしに、町はずれにあるメルヴェイユ博物館に行く。地元の考古学博物館で入場料は無料だが、ディスプレイのやり方など、意外に凝っている。

 駅に戻る。14時30分過ぎ、ニースからやって来た列車が到着。これが折り返してニース行きになる。
 14時47分、ニース行き列車が発車する。S字カーブのトンネルを下ってラ・ブリギュ、サン・ダルマ・ド・タンドに停車する。穏やかなロワイヤ川の流れは、この辺りから急になってくる。

 そして、あのループ区間に差し掛かる。今度は「未来」が下の方に見える。往きには見ることができなかったが、線路の上にある山々の威容には心打たれるものがある。こうして列車はループトンネルを抜けて山を下る。

 15時24分、フォンタン・サオルジュに停車。列車はさらに渓谷を下る。この区間は幹線道路も並走しているが、線路は道路よりも高い位置にあるので、やはり眺めがよい。
 15時38分、ブレイユ・シュル・ロワイヤに停車。時間があれば、この町にも降りてみたい。

 ヴェンティミーリアへ向かう線路と分かれると、列車は長いトンネルを抜けてソスペル、さらに長いトンネルを抜けて16時7分にレスカレーヌに停車。渓谷はパイヨン川のそれに変わる。16時23分、ハルト・ド・フォンタニルに停車。今度は学生が一斉に乗車する。パイヨン川を渡ると、16時27分にドゥラップ・カンタロンに停車。そして南に進むと、最後にヴェンティミーリアから来た線路と合流してニース・ヴィルに到着する。16時40分。

続く
目次へ