ヨーロッパ横断鉄道旅行-第8弾(ミラノ→ヴェネツィア)(1)

マルペンサエクスプレス(ミラノ中央駅)
1日目

スタート

 羽田空港に着いたのは23時過ぎ。さすがに電車は空いているが、搭乗口へと向かうセキュリティゲートの前は少々混雑している。飛行機の出発は40分ほど遅れて翌午前2時過ぎ。さすがに眠い・・・。
 だが、いざ出発すると、かえって眠れなくなってしまう。こんな時、私は飛行機のルートマップを見ることにしている。
 このドバイ行きの飛行機は、通常すぐに韓国に入り、北京から中国北西部を経由してパキスタンに入ると記憶している。ところが、今回の飛行機は日本列島をそのまま西に進み、長崎沖に出て上海に入る。そこから中国南西部を経由してミャンマー、インドを横断する。ペルシャ湾に入ると、眼下には広大なアラビアの砂漠が広がる。とうとう寝そびれてしまった・・・。
 朝7時過ぎ(日本マイナス5時間)、ドバイに到着する。

 昼寝(朝寝?)する暇もなく、すぐに乗り換え、9時過ぎにミラノ行きの飛行機で出発する。ペルシャ湾を北上するとイラクに入り、トルコ、ブルガリア、セルビア、クロアチアを経由してクロアチア領のイストリア半島を横断するとヴェネツィアからイタリアに入る。おそらく最短距離の大圏コースよりも大回りなルートだと思うが、なぜそうしているのか、あれこれ想像するのも面白い。そして13時15分過ぎ(日本マイナス7時間)、ミラノ・マルペンサ空港に到着する。結局、完全に寝そびれてしまった・・・。

 空港のターミナルを出て、何かのオブジェが展示されているスペースを抜けると鉄道駅だ。切符は窓口でも買えるが、混雑しているので、イタリア鉄道の自販機に初挑戦する。英語対応もしており、わかりやすい。他のヨーロッパ諸国と同様、イタリアでも切符のバリデーションは必須。だが、自販機前のバリデーション機は故障していた・・・(その後、イタリアではよくあることだと悟る)。使える機械を探すのに一苦労。

 ようやくホームへ。先頭車両はワインレッド、他は白い列車が入線していた。ミラノ行きのマルペンサ・エクスプレスだ。車内はゆったりしていて、荷物置き場も充実している。
 14時43分に出発。空港の敷地を抜けると地上に出るのだが、駅に停車するたびになぜか地下に入る。マルペンサ空港から2つ目の駅、ブストアルシチョにいたっては岩盤がむき出しで、洞窟のような雰囲気である。列車はしばらく東に向かうが、やがて北西から来た路線と合流してサロンノに停車。ここでは空港からの路線も含めて3路線が合流する。
 これまで各駅に停車していた列車は、ここからようやく「エクスプレス」らしくなり、ボヴィザまではノンストップとなる。ボヴィザを出ると、すぐに大きな路線と合流してポルタ・ガリバルディに停車。ミラノ中央、ミラノ北駅に並ぶミラノのターミナル駅だ。ミラノ中央駅の南西に位置する、このポルタ・ガリバルディ駅は頭端型であり、南東に向かって行き止まりとなる。一方のミラノ中央駅も頭端型で、こちらは南西に向かって行き止まりとなる。この両者をどう結ぶのか、非常に興味があったのだが、答えはちょっと面白かった。
 ポルタ・ガリバルディを出発した列車は前進を始める。一部のホームの先に地下トンネルが作られていたのだ。地下トンネルは大きく左カーブして、その後地上に出る。そして北東に向かうと、今度は大きく右カーブして180度向きを変えてミラノ中央駅に入線する。ポルタ・ガリバルディ駅は一部頭端型を放棄したわけだが、ミラノ中央駅はそうしなかった(できなかった)ようだ。こうして15時35分、マルペンサ・エクスプレスはミラノ中央駅に到着する

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第8弾(ミラノ→ヴェネツィア)

はじめに

 8月は洋の東西を問わず夏休みを取る人が多い。だから1大旅行シーズンである。
 ところが、ことイタリアに限れば、8月は旅行者にとって少々鬼門であるように思う。なぜそうなのかは今回の旅の中でおいおい触れることになるだろう。
 暑さを逃れて涼を求める人々が向かうのは水である。だからというわけではないが、今回の目的地は水の都・ヴェネツィアである。ミラノとヴェネツィアの間は特急でわずか3時間ほど。イタリアに入ってからなぜか私は前に進めなくなってしまったわけだが、それは通過できない町が増えたからだ。
 実際の旅では特急を使うことが多いが、この各駅停車のようなゆったりした旅の進み具合の中で、ミラノやヴェネツィアはもちろんのこと、通過できない町の魅力もお伝えしたい。

旅の時期
2013年8月

目次

    1日目
  1. スタート


  2. 2日目
  3. やっぱり街は芸術


  4. 3日目
  5. 南国?


  6. 4日目
  7. ミラノ→ブレーシャ

  8. 髭の人々の名残


  9. 5日目
  10. ジュリエットはどこに?

  11. 遙かなるローマ

  12. 花か団子か


  13. 6日目
  14. ブレーシャ→ヴェローナ→マントヴァ

  15. 華を追って


  16. 7日目
  17. マントヴァ→ヴェローナ→ヴェネツィア

  18. 迷宮

  19. ライオンの脚の下で(1)


  20. 8日目
  21. ライオンの脚の下で(2)


  22. 9日目
  23. 脱出



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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(34)

ドゥオーモ(ミラノ)
10日目

街は芸術
 朝ホテルを出て地下鉄M1に乗り、カイローリ駅で下車。外に出ると、目の前には大きな城が聳えている。スフォルツァ城だ。その名の通り、ミラノ公国の主であったスフォルツァ家が建てた城である。ぱっと見たところでは小さく美しい城なのだが、近づいてみると城壁が思った以上に高いのに驚く。乱世をしたたかに生き抜いたミラノ公の表と裏の顔を表しているかのようだ。
 城内はいくつかの市立博物館になっている。中でも中世の彫像コレクションの作品は、写実的で細かい細工がなされていてレベルが高い。絵画館にも行きたかったのだが、こちらは休館していた。

 城を出て、南東に伸びているダンテ通りを歩く。賑やかな通りの両側には、優雅だが重厚な造りの建物群がずらりと並んでいる。
 通りから左にそれて、ガッレリアに入る。一種のアーケード商店街なのだが、日本のそれとは全く異なる。天井がガラス張りなのはもちろん、両側の建物は皆重厚で、天井下には巨大壁画が描かれている。すごいのは上だけではない。下を向けば、路上には美しいモザイク画が描かれているのだ。

 ガッレリアを北に抜けると、スカラ座が現れる。ウィーンやドレスデンの歌劇場に比べて外見は地味だが、ここが世界的なオペラの殿堂であることは言うまでもない。昼間は博物館になっているので内部を見学する。

 もう一度ガッレリアに入って、今度は南に抜ける。抜けたところで、別の巨大なアーケードと直交する。このアーケードを横切ると広場となり、広場の前に聳えるのがミラノの大聖堂、ドゥオーモである。この真っ白な建物からは無数の尖塔が伸びている。中に入ると、高い壁、巨大な柱が聳え、ゴシックの荘厳さそのものである。ずらりと並んだ絵画や彫刻も見事だ。たまたまミサの時間だったため、高僧の説教と聖歌隊の歌が順番に繰り広げられる。祭壇の前には香の煙が立ち込め、辺りにはパイプオルガンの音色が響き、壁や床が振動する。

 ドゥオーモ前の広場から地下鉄M3に乗り、モンテナポリオーネ駅で下車。駅の近くで昼食をとっていたら雨が降り出す。すると、待っていたかのように傘売りが一斉に姿を現す。
 雨が小降りのうちに、歩いてブレラ絵画館に行く。イエスとマリアと中心とした宗教画が中心。思ったよりもコレクションの数が多く、見ごたえがある。壁一面に広がる巨大絵画がいくつもあり、迫力満点だ。

 ホテルに戻ると、大通りで車のクラクションがずっと鳴り続けているのが聞こえてくる・・・。フロント氏に理由を聞いてみると、地元のサッカーチームが勝ったからだとか。それなら、もし負けたらどうなるのだろうと想像するだけで、ちょっと恐ろしくなった。

 夕食は、ホテルからミラノ駅に向かった途中にあるレストランにした。ブランドワインは軒並み高いが、安めのハウスワインが意外においしい。パスタはペペロンチーノ、何も言わなくてもアルデンテになっていて(注意:多くのレストランでは「アルデンテ」とはっきり言わない限りはアルデンテにならない)、唐辛子がしっかり効いている。メインは牛フィレステーキ、ソースがとてもおいしい。しめは、リキュール入りのカフェ・コレット。旅の最後の夜は、ちょっと豪華なイタリアンで終わった。

 翌朝5時過ぎ、ついにミラノを発つ時が来た。地下鉄がない時間帯なのでミラノ駅まで歩く。雨は降っているが小雨なので傘は不要だ。駅東側のバス乗り場にはもう多くのバスが並んでいるが、多くはマルペンサ空港行きだ。リナーテ空港行きのミニバスは、しばらくしてようやくやって来た。
 6時過ぎ、バスが出発する。バスは、まだ眠っているこの町を南に抜けると、東にある空港を目指してスピードを上げた。

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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(33)

ミラノ行き列車(ティラノ駅)
ティラノ→ミラノ

 レーティッシュ鉄道の駅を出ると、駅前は意外と賑わっている。イタリアの鉄道駅は、すぐ右手にある。双方の鉄道は線路こそ交わらないものの、駅舎は東西方向に並行している。
 まずは切符を買おうとイタリア鉄道駅の窓口まで行くと、何と休み・・・。幸いツーリスト・インフォメーションが開いていたので聞いてみる。切符は駅舎内のカフェでも購入可能とのこと。早速カフェに行ってみると、本当に切符を買えた。この知識は、この後イタリア各地を旅行した時に大いに役立つことになった。
 やるべきことが一段落したので、駅前のレストランでピザを食べる。イタリアピザは生地が薄いので、一人でも無理なく一枚食べられる。日本の基準ではそれほどでもないが、スイスに比べると、値段は格段に安い。やはりスイス方面から来る人が多いのであろう、レストランの中ではドイツ語が頻繁に飛び交っている。

 13時頃、ミラノ行きの快速列車が入線する。車内には、左右2列ずつの青いシートがずらりと並ぶ。これも今後イタリア各地で乗ることになる2等車の標準的な仕様だ。列車を運行しているのは、イタリア最大の鉄道会社であるトレニタリアではなく、そのグループ会社のTrenordであるが、車両はトレニタリアのものを使っているようだ。
 13時11分、列車が出発する。レーティッシュ鉄道の駅が右手に見えるが、やがてそれと分かれて左手に進む。線路は単線だ。

 列車はアッダ川に沿ったヴァルテッリーナ渓谷を南西に進む。13時20分、トレセンダ・アプリカ・テグリオに停車。谷の北側の丘陵には、「BETINI」、「NINO NEGRI」などの文字看板が立っている。ヴァルテッリーナ渓谷はワインの産地として知られており、これらの丘陵はみなブドウ畑で、看板は生産者名なのであろう。
 少し大きな町に入る。13時38分、ソンドリオに停車。乗客が増えてきた。列車はかなりのスピードを出して、渓谷を西へと駆けて行く。北側にはアルプスの美しい山並みが広がるが、上の方が次第に霞み、雨が降り出す。それもじきに止み、山々は後退して空も晴れてくる。13時54分、アルデンノ・マシーノに停車。対向列車を待って、13時57分に出発。
 列車はトンネルを抜けると、アッダ川を渡る。14時5分、モルベーニョに停車。ここで、やや遅れている対向列車を待って、14時10分に発車。山々はさらに後退し、その麓には大きな町が広がる。そして、キアヴェンナ方面からの線路が右から合流して、14時21分、コーリコに停車。ここでは5分遅れとなる。コーリコは、ちょうどアッダ川が湖に合流する辺りにある。

 オレンジ色の屋根の群れの向こうに、大きな湖が見えてきた。コモ湖だ。ここからは、湖の東岸を南下する。とても美しい眺めだが、列車は容赦なくスピードを上げ、が見えたかと思うと、トンネル、またトンネルと通過してゆく。14時35分ベッラーノ、14時40分ヴァレンナに停車する。湖岸には、町ができるようなスペースが次第になくなり、とうとう岩山が湖に迫るようになる。そして15時1分、列車は湖の南端にある大きな町・レッコに停車する。

 レッコからはコモ方面に向かう線路と分岐して、水路に沿って南東に進み、小さなガルラーテ湖を過ぎると、ベルガモ方面に向かう線路と分岐して、今度は南西に進む。ここで、ようやく検札が行われる。コモ湖・ガルラーテ湖から注ぎ出して再び川に戻ったアッダ川を渡る。もはや水の景色はなく、列車はスピードを上げてロンバルディアの平原をひた走る。丘陵であろうか、長いトンネルをいくつも抜ける。
 15時25分、モンツァ・ソッボルギに停車。次いで15時32分、隣の駅モンツァに停車。スイス・バーゼル方面からコモを経由してきた線路が、ここで右から合流する。市街地が途切れることなく広がる。もうミラノに入ったのであろう。列車は直線の線路を南西に進む。セスト・サン・ジョバンニを通過、ここはミラノ地下鉄1号線の起点である。ミラノ・グレーコ・ピレッリを通過すると左にカーブ。すると、巨大な構内線の中に突入する。15時46分、列車はついにミラノ中央駅に到着する

 イタリアを代表する都市の中心駅は、やはり巨大な屋根に覆われた頭端式のホームで構成されていた。そればかりではない。駅舎も巨大な白亜の柱と屋根で構成されていて、これ自体が芸術品になっている。私は、目がくらみそうになりながら、オートスロープ(段差のないエスカレーター)に乗って地下へと下りていった。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(32)

ループ橋(ブルージョ)
ポスキアーヴォ→ティラノ

 ポスキアーヴォには6分停車して、10時28分に発車する。この辺りの街並みは、壁がカラフルで陽気な雰囲気だ。スイスの中ではあるが、イタリア語圏に入ったことを実感する。リ・クールトを通過すると、カヴァーリアーシュ川に沿って走る。線路と道路との間隔が次第に近づき、しまいには列車が路面を走るようになる。日本で言うと、腰越駅付近の江ノ電に近い。10時36分、ル・プレーゼに停車。
 ル・プレーゼを出発すると、すぐに大きな湖が現れる。ポスキアーヴォ湖だ。先ほど山の上から見た景色、谷間の奥に見えた湖は、これであったのだ。列車は湖の西岸を南東に向かって進み、10時41分、湖の南端にあるミララーゴに停車。
 ここから、湖から流れ出した川に沿って渓谷を下る。谷の下方にはブルージョの町と、そしてその向こうに鉄道のループ橋が見える。だが、緩やかに見える川沿いの道は、意外にも急勾配であった。列車は大きなS字型カーブに入り、曲がり終えるとブルージョ駅が現れる。しかし、駅にたどり着くには、もう一つS字型カーブを抜ける必要があった。こうして、10時49分、ブルージョに停車。

 ブルージョを発車した列車は坂を下り、いよいよループ橋へと向かう。橋のアーチと、その下をくぐる線路がはっきり見えてきた。列車がアーチの上を通過し、そして下りて行くぐるりと回ると、今度はアーチの下をくぐってループ橋と別れを告げる。興奮が冷めやらぬ間に、列車はカンポコローニョに停車。11時ちょうどだ。

 カンポコローニョからさらに谷を下る。国境を示す明確な標識を見ないまま、列車はついにイタリアに入る。ティラノの市街をゆっくりと抜けると、11時10分、ベルニナ線の終着駅・ティラノに到着する。頭端式(フォーク型)1面のホームの端にある改札口に向かうと、そこにはカタカナで「ティラノ」の文字が!。これはレーティッシュ鉄道と同じく山岳鉄道である箱根登山鉄道から寄贈されたもののようだ。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(31)

カヴァーリア→ポスキアーヴォ(3)
アルプ・グリュム→ポスキアーヴォ

 アルプ・グリュムを出発すると、さっそく大きなヘアピンカーブを下る。南側には大きな雪山が見える。この先もヘアピンカーブを続けて下りて行くが、雪よけ用トンネルに入ってしまうため、下の線路を見ることはできない。トンネルを抜けた後も下り坂は続く。駅間が長いためか、途中には待避線もある。
 ヘアピンカーブの最後は、渓流に架かるアーチ橋だ。ここを渡る川沿いに進み、9時58分にカヴァーリアに停車。対向列車は、ベルニナ・エクスプレスだ。

 元々スピードは出ていないが、ここからはさらに徐行運転となる。渓流に架かる小さな橋の線路脇にスペースがある。親水公園のような施設であろうか?険しい山道はさらに続く。
 線路の東側の視界が開けた。そこには、はるか下方に広い谷間と、その奥に湖が見える。列車は連続する大きなヘアピンカーブに差し掛かる。この間、東側に開ける景色は変わらない。ただ、ヘアピンカーブを1つ下るたびに、谷間の景色が少しずつ、大きくなっていくのがわかる。

谷間
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坂を下る列車 その1その2
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谷間
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坂を下る列車
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谷間
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谷間
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坂を下る列車
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谷間

 そして、とうとう谷底が姿を現す。イメージ通りの、緑に囲まれたアルプスの美しい谷だ。列車は、この谷間の町ポスキアーヴォに停車。10時22分。対向列車が待っていた。谷間とはいえ、この駅の標高は1014メートルもある。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(30)

ティラノ行き列車(サン・モリッツ駅)
9日目

サン・モリッツ→アルプ・グリュム

 ついにサン・モリッツを去る日が来た。前日と同様、この町はよく晴れている。もうエンガディンカードは使えないから、駅で切符を買う。せっかくなので、1等車にする。
 前日と同じティラノ行き列車に乗る。最後尾にクラッシック・プルマン・エクスプレスという豪華な車両が連結されているが、これはどこかへの回送用で、乗ることができない。1等車である先頭車両に乗る。前日よりは人出が多いが、さすがにここはガラガラだ。

 8時45分に出発する。発車するとすぐに分岐サメーダンへ向かう線路はトンネルに吸い込まれ、こちらはイン川を渡る。イン川を渡るとトンネル、抜けるとツェレリーナの町が見える。町外れの丘に建つサン・ジャン教会が、山並みをバックに美しい姿を見せる。
 8時52分、ポントレジーナに停車。12分の停車時間の間に、運転士が交代し、サメーダンからの列車を待ち合わせる。9時4分に発車。ここから山道を登り始め、9時7分、シュロヴァスに停車。前日は通過したこの駅に停車したのは、この列車がリクエスト・ストップになっているからだ。(前日の旅は、こちらを参照。)

 列車はぐんぐんカーブを上る。そして、モルテラッチに停車、と思いきや、通過してしまう。この日は氷河に向かう人がいなかったようだ。ベルニナ川に注ぎこむ渓流を渡り、勾配はますます急になる。いよいよアルプスの山々が大きくなって現れる。幸いなことに、この日は山も晴れていた。
 少し開けてきた山道を、ベルニナ川に沿って列車は進む。9時21分、ディアヴォレッツァに停車。きっと山の上からも素晴らしいパノラマが望めるであろう。次いで、9時24分、ベルニナ・ラガルプに停車。対向列車がここで待っていた。

 列車はいよいよ白銀の世界へ。列車は真っ白な山々の麓、凍った湖の岸をゆっくりと進む。9時33分、ラーゴ・ビアンコの岸にあり、ベルニナ峠にもほど近いオスピツィオ・ベルニナに停車。しばらく進んで、ようやくラーゴ・ビアンコの溶けた水面が現れるが、すぐにそれとも別れを告げ、湖はへと変わる。長い雪よけのトンネルを抜けると、険しい山道を下り始める。9時43分、アルプ・グリュムに停車する。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(29)

ディアヴォレッツァ・ロープウェーから(2)
吹雪の後に

 10時42分、ティラノ行きの列車が3分遅れで到着する。ようやく凍っていないラーゴ・ビアンコの水面が現れる。辺りが真っ白なせいか、こちらは青みがかった灰色に見える。ラーゴ・ビアンコを過ぎると、山道を下り始める。いくつものトンネル(多くは雪よけのトンネルだ)を抜けると、10時50分にアルプ・グリュムに停車する。私はここで下車する。

 アルプ・グリュムに降り立ってはみたものの、私は困ってしまった。ここから少しでも山道を歩けないかと思っていたのだが、線路を渡ったところに坂道があるのはわかったものの、それがすぐに行き止まりになっている気がした。(後で地図を見ると、実はそうではないことがわかったのだが・・・)それで、なんとなくホームの先に行ってみると、そこには大きなカーブが広がっていた。このアルプ・グリュムを出たところで、線路は長い長いヘアピンカーブを描いて山を下ってゆくのだ。
 そうこうしているうちに、カーブを登って列車がやって来た。サン・モリッツ行きの列車だ。もしもこの辺りの地形を知っていたならば、私はこの列車を見送って、坂の上からヘアピンカーブを行き交う幾多の列車の雄姿を見ることができたであろう。しかし、私はすっかり諦めていたので、そのままこの列車に乗ってしまった。
 列車は再びラーゴ・ビアンコの岸を通って11時22分、ベルニナ・ラガルプに停車。ここで対向列車を待つ。やって来た対向列車は、ベルニナ急行だった。さすがに車内は満席である。11時30分、列車が発車する。11時33分、ディアヴォレッツァに停車。私はここで下車する。

 駅から少し坂を上ったところにロープウェー乗り場がある。もしやと思ってエンガディンカードを使ってみると、ちゃんと改札を通過できるではないか。ロープウェーも無料になるとは、素晴らしい。黒くて大きなロープウェーに乗り、標高約2200メートルの麓から2986メートルの山頂まで一気に上がる。

 だが、というか、やはりというべきか、山頂は吹雪だった・・・。山麓が曇っているのだから、山頂が良い天気のはずがない。辺り一面真っ白で、山々の姿はすっかり隠れてしまっている。ここで諦めて麓に戻ろうかとも思ったが、ちょうど昼食時でもあり、少し待ってみることにした。

 山頂のレストランで食べたのは、スイスの国民食・レシュティだ。刻んだジャガイモをオーブンかフライパンでこんがりと焼き、その上にチーズや卵をトッピングしている。そしていつもの調子でビールを飲む。ここでゆっくり待つのが目的だから、ビールも2杯目に突入。
 だが、ここで異変が起こる。頭がズキズキしてきたのだ。普段この程度の酒量なら、どうということはないのだが、ここが標高3000メートルの高地であることをすっかり忘れていた・・・。高地にいると、アルコールの酔いに加えて高山病の酔いが加わってしまうらしい。

 ようやく頭痛もおさまり、ふと外を見ると、青空が顔をのぞかせているのに気付いた。期待に胸を膨らませて外に出てみる。
 上空の雲はまだ多いが、視界はかなりすっきりしてきた。まだ靄がかかっているものの、山々の雄姿をはっきりと見ることができる。反対側の山々もはっきりと見える。稜線に張り巡らされたリフトのケーブルもよく見える。まだ風は強く、乾いた雪が吹き上げられ、地吹雪となって時折襲ってくる。これはけっこう痛い・・・。

 アルプスのパノラマを楽しんだ後、再びロープウェーに乗る。山を下りながら、山頂とは少し違った角度からパノラマを楽しむことができた。やはり待つことも大事である。

 カーブを縫うようにして上って来た列車が、ディアヴォレッツァ駅に停車する。サン・モリッツ行きの列車は、14時34分に発車する。列車はベルニナ川に沿って山を下りヘアピンカーブを抜けるとモルテラッチに停車。さらに山を下ってポントレジーナを過ぎると、少し広くなったベルニナ川の川岸や、山麓ののどかな平野の中を疾走する。そして15時12分、列車はサン・モリッツに到着する。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(28)

ベルニナ峠(北)
北と南の間で

 駅には既にティラノ行きの普通列車が入線していた。2等車に乗るが、設備は結構いいし、早朝なのでガラガラだ。座席前のテーブルは、路線図になっている。
 実は、この日はホテルで借りたエンガディン・カードを使う。(2013年時点では、オーバー・エンガディン地方のホテルに2泊以上すると、公共交通に乗り放題となるエンガディン・カードを、宿泊期間分借りることができた。)このカードを使えば、アルプ・グリュムまでのベルニナ線の2等車に乗り放題なのだ。

 8時45分、列車が出発する。出発するとすぐに、右に分岐する。左に分岐すると、前日通ったサメーダンに向かう路線となる。ところが、両者共すぐにトンネルに入ってしまうので、分岐したことには気づきにくい。トンネルを抜けるとツェレリーナの美しい街並みが見えてくる。こちらの路線にあるのは、ツェレリーナ・スタッツという駅なのだが、これは通過する。線路が丘陵の端にあるので坂を上り下りする。少し後になってから気づいたのだが、実は、この列車はリクエスト・ストップの列車だった。すなわちバスと一緒で、乗客が次の駅に停まることをリクエストするか、駅で乗客が待っていない限り、列車は駅を通過してしまうのだ。停車をリクエストする方法なのだが、これは車両間ドアの隣にあるボタンを押せばよい。

 列車は大きく右カーブしてベルニナ川の西岸に出る。川の対岸には、サメーダンからやって来た路線が走っている。列車はプント・ムルガル・スタッツを通過して(川の対岸にはプント・ムルガルという駅がある)、やがて川を渡ってきた路線と合流する。そして8時53分にポントレジーナに停車する。サン・モリッツ、サメーダン、ポントレジーナの3駅を結ぶ路線は、こうして三角形を成しているのだ。列車はポントレジーナに10分停車した後、9時3分に発車する。
 列車はロゼグ川を渡って、山小屋風の駅舎のあるシュロヴァスを通過すると、ベルニナ川に沿って南に進む。9時13分、モルテラッチに停車。ここでは東から流れてきたベルニナ川と、南から流れてきた川が合流しているのだが、南から流れてきた川に沿って歩くと、モルテラッチ氷河に至る。
 そのような地形のせいか、列車はここから大きく北に反転して迸る渓流を渡ると、今度は大きなヘアピンカーブを登って、南東方向に再反転する。きつい勾配をぐんぐん登ると、少し開けたところに出る。辺りは雪に覆われたアルプスの山々に囲まれている。
 ベルニナ・スオットを通過。そして次の駅、ベルニナ・ディアヴォレッツァには停車する。ここはディアヴォレッツァという山の麓にあり、駅前から山の頂上に向かうロープウェイがある。

 列車は次のベルニナ・ラガルプを通過すると、右に左に次々とカーブする。辺りが平坦に見えるので気づきにくいのだが、勾配が相当にあるのだ。当初は茶色い地面の露出が多かったが、次第に雪に覆われていく。それを取り巻く山々は完全に雪化粧をしている。
 列車はレイ・ネイル(黒い湖)の側を通るのだが、その黒い水面は真っ白な雪に完全に覆われて、場所すらわからない。そしていよいよラーゴ・ビアンコ(白い湖)が現れる。確かに真っ白だ。しかし、本来は氷河に削られた岩石の成分によって水が白くなっているのであって、この白さはインチキである(笑)。
 9時33分、ラーゴ・ビアンコ湖畔のオスピツィオ・ベルニナに停車。私はここで下車する。この駅は標高2253メートルの地点にあり、ベルニナ線の中でも最高地点にある。

 湖がまだこんな感じなので、湖畔に出ることはできない。駅から坂を上ってみると、ラーゴ・ビアンコ(のある場所)を一望することができる。さらに坂を上ると道路に出る。
 せっかくなので少し歩いてみよう。数分もしないうちに、ベルニナ峠の小さな標識に行き着く。標高2330メートルの峠は、広大なアルプス山脈を南北に分かつポイントの一つだ。それはヨーロッパを南北に分かつポイントだと言ってもいいだろう。実際、ここから南はスイスの中でもイタリア語圏となるのだから。ディアヴォレッツァとかラーゴ・ビアンコは既にイタリア語である。
 峠からの眺めは雄大そのものだ。南を向けば、高く険しい山々が幾重にも連なり、やって来た方向(西)を振り返れば、道路を取り囲むように真っ白な山々がいつまでも続いている。

 駅に戻ろうとして、思わず足を止める。ちょうど列車がラーゴ・ビアンコの湖畔を行き過ぎていくのが見える。銀世界の中を走る赤い列車も、なかなか絵になる眺めだ。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(27)

サン・モリッツ湖(5)
8日目

湖の朝

 朝、ホテルを出て駅に向かう道すがら、サン・モリッツ湖を見に行く。前の日とは打って変わり、湖の西岸も東岸もよく晴れている。というよりも、雨が少なく、晴れているのがサン・モリッツの普段の姿らしい。

 西岸の町と、南岸に聳える山が静かな湖面に映し出される。そして、西岸のさらに奥に聳える山は、真っ白な雪に覆われている。
 ずっと眺めていたい風景だけど、そろそろ列車の時間なので、踵を返して駅の方へと向かう。

続く
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