ヨーロッパ横断鉄道旅行-第1弾(イスタンブール→アテネ)(9)

ビザンチン城壁(4)
テッサロニキ

 高架になっているホームから階段を下りると、そこには改札口はなく、外との出入りは自由である。1階にある切符売り場に行く。翌日のアテネ行きの切符を買うためだ。
 ヨーロッパ=先進国=サービスの質はそこそこ、というステレオタイプな思い込みはここであっけなく崩れ去る。終始面倒くさそうな表情を浮かべながら、日付・目的地などを時折聞き返してくる係員の剣幕のすごさに、私は少々怖気づきながらも何とか切符を買うことができた。最後には、お釣が投げ返されるというおまけつきである・・・。どの窓口を見渡しても、事態は同様のようであった。

 駅舎の外には大きなバスターミナルがある。テッサロニキ駅は市街地の西外れにあるので、ここには市内各地に行くたくさんの路線バスが集結している。ギリシャの都市バスは切符を車内で買うこともできるが、バスターミナルなどの窓口で切符を買うと安くなる。だからなのか、わずか2つしかない窓口にいつも長蛇の列ができている・・・。私も1日乗車券を買うために、この行列に並ぶ。30分ほどして、ようやく1日乗車券とバスの路線図を入手できた。

 テッサロニキのバス路線は複雑な上に、路線図はギリシャ語で書かれているから、そこにある地名を理解するのに一苦労する。案の定、最初に乗ったバスは乗り間違いであった・・・。
 ちなみに、窓口で買ったものであれ、車内で買ったものであれ、バスに乗ったら切符に乗車日付時刻のスタンプを押さねばならない。スタンプを押す機械は車内に何箇所かある。スタンプを押してしまえば、切符を運転手に見せることもなく、どのドアから降りても良い(主要路線には2両編成のバスも少なくない)し、通常の切符でもスタンプを押してから70分以内であれば他のバスに乗り換えても良い。しかし、時々行われるという(私は経験したことがないが)検札で切符を不所持だったりスタンプを押していないのが発覚すると高額な罰金を徴収されてしまうそうだ。

 さて、バスに乗り間違えていたことに気付いた私が降りたのは、市街地の中心部にビザンチン帝国時代の城壁の遺構が現れる辺りであった。本当は、市街地をこの城壁沿いに北に向かった所にある丘の上まで行きたかったのだ。
 テッサロニキの歴史は古い。紀元前4世紀、マケドニア王国の時代に建設されたこの町は、古代ローマ時代にはマケドニア地方の中心地となり、続くビザンチン帝国時代には首都ビザンチン(イスタンブール)に次ぐ第2の都市となる。そして今でもギリシャ・マケドニア地方の中心都市であり、ギリシャ全体でもアテネに次ぐ第2の都市になっている。
 バスを降りてしばらく歩くと、ローマ時代の4世紀に建てられたガレリウスの凱旋門が聳え立つ。ガレリウスは、ローマ皇帝ディオクレティアヌスによる帝国4分割により、帝国東方の副帝(後に正帝)となり、ドナウ川南岸のバルカン半島一帯を支配した人物である。柱に描かれたローマ風のレリーフを眺めるていると、とうとうヨーロッパ文明の世界に立ち入ったことを実感する。凱旋門から北に向かって少し坂を上った所にロトンダがある。これはガレリウスの墓所として建てられ、その後キリスト教の教会、さらに後にはモスクとして使われた建物だ。残念ながらこの日は休館日で中に入ることはできなかった。
 ここから丘の上に向かうバスはなさそうだ。仕方なく、歩いて行くことにする。進むにつれ、城壁は高く立派になる。保存状態が良いのであろう。だが、坂道は細く曲がりくねるようになり、傾斜もきつくなる・・・。
 やっとの思いで丘の上にたどり着くと、そこにはピルゴス・トリゴニウという見張り台が聳えていた。ここからはテッサロニキの町を一望することができる。これらの城壁は全てビザンチン帝国時代のものだ。
 意外にも丘の上は平坦で道も広く、人家も多い。しばらく散歩した後、市街地中心部に向かうバスに乗る。

 バスは南に向かって坂を下り、市街地の南、テルマイコス湾に面する海岸近くまで行く。ギリシャ各地の島々や外国に向かうフェリーターミナルの近くでバスを降り、海岸沿いに歩く。通りには大きなホテルやオープンカフェが建ち並び、リゾート感が漂う。だが、青い海を期待していた私の目は、次の瞬間海から目をそらしていた。なぜなら、海水は茶色く濁り、たくさんのゴミが漂っていたからだ・・・。

 いくつかのバスを乗り継ぎ、市街地を北に向かう。ここのバスにはだいぶ乗り慣れてきた感じがする。パナギア・ハルケオン教会の前で下車する。テッサロニキには古いギリシャ正教の教会がいくつもあるが、これはその一つだ。入場できるのは午前中だけらしく、外から眺めるしかなかった。
 教会の周りを囲む広場を北に抜けると、何やら発掘中の遺跡が現れる。ローマ時代のアゴラ(広場)の跡だそうで、劇場や柱廊のある、相当に立派な遺跡だ。
 さらに北に進むと、アギオス・ディミトリオス教会がある。もともとは5世紀に建てられたという教会だが、もちろん何度も修復しているだろうから建物自体は新しく見える。教会内部を飾るモザイク画は大変立派なものだ。中にいる参拝客は、私のような観光客風情の人は少なく、皆熱心にお祈りしている。ここはキリスト教世界なのだという実感が湧く。

 駅前にあるホテルに行くため、再びバスに乗り継いで行く。

続く
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