シルクロード鉄道旅行-第5弾(アルマティ→シムケント)(8)

カラ・ハーン廟(2)
5日目

タラズ

 前夜の雨はもう止んでいたが、空は曇ったままだ。9時過ぎ、車はタラズに向けて出発する。シムケントの街を抜けると、沿道には緑の丘が続く。もちろん、そこには無数の馬・牛・羊・・・。どんなに眠れそうにない夜でも、この光景を思い出せばすぐに眠りにつけそうだ。鉄道の線路が道路に並走している。前日、アルマティからの列車はこの上を疾駆してきたのだった。
 やがて、右手(南側)に白い雪を頂いた美しい山々が現れる。アラタウ山脈だ。アルマティで見た山々が、ここまで続いているのだ。そして、この壮大な景色は途切れることなく数十kmも続く。

 シムケントを出てから2時間30分。車はようやくタラズの近郊にさしかかる。タラズという町の歴史は紀元前1世紀に遡る。この地域は、天山山脈の北側を東西に通じるルートと、ロシアからインドに南北に通じるルートの交差点にあたり、タラズもシルクロードの要衝として繁栄する。751年に中国・唐とイスラム帝国が衝突したタラス河畔の戦いは、世界史上に名を残す大事件であり、この戦いを機にイスラム世界に伝わった製紙技術は、イスラム文明さらにはヨーロッパ文明を大きく転換することになる。タラズは、10世紀にはカラ・ハーン朝の都となり繁栄は頂点を極める。しかし、12世紀にはモンゴルにより破壊され、さらに15世紀以降はシルクロードが海上ルートに取って替わられたことに伴って衰退し、普通の地方都市になってしまったのだ。

 車は、タラズ西郊の小さな公園に到着する。ここにアイシャ・ビビ廟とババジ・カトゥン廟並んで建っている。この2つの廟の由来として、1つの悲しい伝説が伝えられている。
-サマルカンドの商人の娘アイシャは、カラ・ハーン朝の王と恋仲になり、父親の反対を押し切って乳母ババジ・カトゥンのみを伴いサマルカンドを抜け出し、タラズに向かった。しかし、タラズに入る直前に川で身を清めていたアイシャは、毒蛇に噛まれてしまう。急を知った王が駆けつけ、彼女はビビ(妃)となるも、息絶えてしまった。その後、王はアイシャのために廟を建て、以後妻を持たなかったとされる。-
 11世紀に建てられたアイシャ・ビビ廟は、破損したために修復されている。色は地味だが、タイルの細工の細かさは素晴らしい。

 アイシャ・ビビ廟を出て東に向かうと、ようやくタラズの町に到着する。町の中心部には巨大な建物が並び、道幅も広い。シルクロードというよりもヨーロッパの町を思わせる。この日は何かお祭りがあるらしく、広場で軍隊のパレードが行われていた。だが、兵士達の動きは素人目にもわかるほどバラバラだ・・・。上官の怒声がスピーカーを通して流れる。冷戦の終結は、こんな所にも影響しているのかもしれない。
 町の歴史博物館に行く。お祭りのせいだろうか、なぜか閉まっている・・・。ガイドさんがかけあってどうにか入れてもらう。古代から近現代に至る町の歴史が、膨大な資料と共に展示されている。学芸員さんの説明(ロシア語)をガイドさんが通訳(英語)するというかなりハードな見学だったが、とても面白かった。

 歴史博物館からカラ・ハーン廟に向かう。案内図がほとんど無いせいもあって、タラズは初めてのガイドさんは何度も道に迷うが、どうにか到着。緑豊かな静かな公園の中に、その廟は建っていた。11世紀に建てられたカラ・ハーン朝の王の墓だ。レンガでしっかりと造られているが、王の墓としてはやや地味に思えた。(ガイドさんは「聖人の墓だ」と説明していたが・・・)同じ敷地内には、13世紀にこの地を支配したモンゴル人の王を祀ったダウイト・ベク廟もある。

 帰り道にタラズ川の古戦場に行ってみようとしたが、タラズ川は町から数十キロも離れていて時間的に無理だとわかった。事前にわかっていれば、日程や宿泊場所を調整してでも行ってみたかったのだが。

 シムケントに向かっていた車は、シムケントの手前の峠で急に道を折れて谷間に入ってゆく。道の両側は急傾斜の山になっているが、その上にも牛や羊が放牧されているのに驚く。驚いている間にも、車は谷間の細い道をどんどん進む。進むにつれて両側の山々は断崖絶壁に変わる。ようやく車は滝の入口で停まる。運転手さんが「おまけ」として連れて来てくれたのだった。マシュクトと呼ばれるその渓谷は、夏休みには子供達のキャンプ地として賑うらしい。自体はとても小さいのだが、岩から水が滴り落ちているのが珍しい。

 長い日帰り旅を終えたものの、日没までには時間があった。ホテルにほど近い中央バザールに行く。いつの間にか空は晴れ、強い西日が照りつける。バザールには肉・野菜などの食料品をはじめ、日用雑貨を扱う小さな店が多数出店している。アルマティでもバザールを見たが、ここの特徴は、ビスケットなどのお菓子を秤売りしていることだろうか。夕方になり、多くの店が既にたたみ始めている。かつて栄えたタラズの町の様子もこんな風だったのだろうか?とバザールを歩きながら想像する。

続く
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