ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(15)

カジノ・ド・モンテカルロ
8日目
一八

 この日も快晴だった。8時50分、ニース・ヴィル駅からマントン行き列車で出発。ヴィルフランシュの美しい入り江の景色を見ながら進む。カップ・ダイユを過ぎると長いトンネルに入り、9時5分、トンネルの途中でモンテカルロに停車。私はここで下車する。
 ホームトンネルをよく見ると、壁や天井にランダムに過剰なくらい照明がついていてとても明るい。何だか銀河の中心に来たような気分だ。モンテカルロという街はこんなところから、その演出を始めているのかもしれない。
 長いホームの両端に出口がある。まずはマントン側、すなわち東口から出てみよう。外に出て驚くのは、歩道が少なく、歩くにはちょっと辛い・・・。歩道が少ないのは街の構造上の問題もあるだろうが、すぐに別の理由に気づく。実はF1グランプリ(2016年5月)の開催が間近に迫っていたのである。このため、あちこちの歩道が閉鎖されて見物のための桟敷が作られていた。

 それでも何とか道端を歩いたり渡ったりして、港にたどり着く。そこは、小さなヨットから大型客船までが集う、さながら「船のサービスエリア」のようになっていた。
 港から歩道のついたトンネルがあるので歩いてみる。ここには初めて来たのに、どこかで見たような景色だ。もしかすると、それはテレビゲームのカーレースのワンシーンだったのかもしれない。
 トンネルを出て丘を上ると、何やら宮殿のような建物がいくつも建ち並ぶ。その中でもひときわ大勢の人々が出入りしている建物がある。それこそが、カジノの殿堂?カジノ・ド・モンテカルロであった。大して金はなくとも、一か八かの勝負をする気がさらさらなくとも心配はない。このカジノは見学できるのだ。10ユーロ(約1300円)払って中に入る。外観だけではなく、内装もやはり宮殿のようだ。ATMが何台も置いてあるのが、妙にリアリティがある。壁の貼り紙のよると、掛け金は1000ユーロ(約13万円)単位だそうで・・・。ルーレットやポーカーテーブルだけでなく、スロットマシンもあるのだが、最新式?機械の真っ黒なボディが、このクラシックな「宮殿」の内装に不思議なくらいしっくりくるのだ。

 夢(悪夢?)の空間を抜けだして、またリアルな空間を歩く。港の向こう側(南側)の丘を上る。城壁があるのだから、普通の場所ではない。そこはモナコ大公の住む本物の宮殿であった。
 宮殿に入る前に、この丘からの眺めを堪能しよう。北を見れば、先ほど寄ったモナコ港を眺めることができる。南を見れば、そこにはヨットハーバーがある。
 そうこうしているうちに、宮殿前に人々が集まり始めた。12時を前にして、衛兵の交代式が行われるのである。まず、新たな衛兵が太鼓を打ち鳴らしながらやって来る。そして詰所で新旧の衛兵が交代すると、役目を終えた衛兵が同じく太鼓を打ち鳴らしながら出てゆく。
 式も終わり人々も解散したので、私も宮殿に入る。ランチタイムだから空いている?と考えたのが浅はかだったのか、意外に長蛇の列になってしまった・・・。この宮殿は小ぶりで、カジノのような見た目の派手さはないものの、コストをかけたのがよくわかるという意味でなかなか贅沢な室内の内装であった。

 宮殿の丘の上をそのまま西に歩くと、モナコの旧市街になる。この中心にあるのがモナコ大聖堂で、真新しい大きな絵画や装飾がみごとだ。その近くには海洋博物館がある。博物館といっても実際は水族館で、大勢の家族連れでにぎわっていた。
 旧市街から丘を下ってゆく。F1の巨大な桟敷(というか、もはやスタジアム化している)が見える。
 今度は駅の西口を目指して歩くが、地下鉄の駅と同様に看板だけが頼りで、しかもその看板が目立たないため、見つけるのに苦労する・・・。何とか駅にたどり着くと、14時40分着予定(実際は2分遅れ)のカンヌ行きに乗る。ニース・ヴィルには15時過ぎに停車。

 ニース・ヴィルの駅前からトラムに乗って南に進み、マセナ広場で下車する。この辺りはニースの旧市街で、オペラ座などの古くて由緒ある建物が並んでいる。

 いったんホテルに戻り、夕方再びニース・ヴィル駅に向かう。18時57分、ヴェンティミーリア行きの列車に乗る。19時20分、モンテカルロに停車。ここで下車する。今度は西口から出る。
 夕食をと思って駅前を探すが、フレンチレストランは少なく、イタリアンレストランが多い。というわけで、予想外に大盛りのスパゲッティを食べて、超満腹・・・。
 だが、夜わざわざモンテカルロに出てきた理由は食事だけではない(笑)。ということで、宮殿の丘に向かう。日没にはまだ少しあるので、ベンチで待つ。辺りにはカメラや三脚を持った人が何人もいる。皆、ここからの夜景を狙っているのだ。
 21時、ついに日没になり、辺りが真っ暗になった。宮殿にも照明が灯され、西側の山モナコ港ヨットハーバーがそれぞれ夜の装いを現し始める。この灯の下では、巨額の金を巡って大勝負が繰り広げられているのだろう。
 いつまでも夜景を眺めていたいが、この地に泊まっていない(モナコのホテルはとても高いのだ・・・)以上はシンデレラと同じく時間は気にしなければならない。ということで、靴が脱げそうなくらい急いで、駅には21時30分過ぎには着いたのに、次のニース行きは何と22時13分・・・。この銀河のトンネルの中でwifiが使えたのがせめてもの幸いである。
 22時過ぎ、ニース行きの列車が早くも入線。モンテカルロ始発だったのだ。そして予定通りに22時13分に出発。22時30分、ニース・ヴィルに到着。

続く
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ヨーロッパ横断鉄道旅行-第13弾(ミラノ→ニース)(14)

タンド鉄道橋
7日目
タンド線

 快晴だ。しかし、この日は海ではなく、山に向かう。ニース・ヴィル駅の一番はずれのホームに列車は入線していた。パンタグラフはなく気動車、3両編成。車内は座席が1列・2列に並んでいて、一人旅にはうれしい。車両の側面には"Train des merveilles"と書かれている。"merveilles"は、この列車が向かうメルヴェイユ地方を指しているのだが、フランス語で"merveille"は「驚異・奇跡」という意味でもあるので、「奇跡の列車」とも読める。さて、今日の旅にはどんな「奇跡」が起こるのやら。

 9時24分、列車が発車する。最初は東に向かうのだが、すぐに入るトンネル内で、ヴェンティミーリアへ向かう線路と早くも分岐して北に向かう。トンネルを抜けるとパイヨン川を渡り、大きな操車場に入る。操車場には気動車用の軽油?スタンドがあったりして、面白い。
 列車はその後もパイヨン川に沿ってニースの郊外を北に進むのだが、意外にトンネルが多い。9時37分、ドゥラップ・カンタロンに停車。対向列車を待つ。ここからはもう単線区間になるのだ。9時40分に発車。9時43分、ハルト・ド・フォンタニルに停車。近くに高校があるらしく、学生が一斉に下車する。しばらく進むと、山登りが始まる。ディーゼルエンジンが唸りを上げる。9時52分、パイユに停車。川は渓谷になる。谷の町レスカレーヌに停車。ちょうど10時だ。

 短いトンネルを抜けて、10時3分にトゥエ・ド・レスカレーヌに停車すると、今度は長い長いまっすぐなトンネルに入る。スピードは出るが、その分よく揺れる・・・。ようやくトンネルを抜けると、そこには渓谷のほとりの美しい街並みがあった。10時12分、ソスペルに停車。きっと観光地なのであろう、多くの乗客が降りてゆく。

 列車はしばらくこの渓谷に沿って走るが、またもや長くまっすぐなトンネルに入る。抜けると、これまた別の渓谷が現れる。ロワイヤ川である。そして、こちらの車窓からはわからないが、もう一本の線路が山の上方に並行するように走っている。やがて、渓谷のほとりにやや大きな美しい街並みが現れ、並行していたもう一本の線路といつの間にか合流する。10時27分、ブレイユ・シュル・ロワイヤに停車。あのもう一本の線路とは、ヴェンティミーリアからロワイヤ川沿いにやって来たものなのだ。

 列車はロワイヤ川に沿って進むが、標高がぐんぐん上がっている感じがする。10時44分、フォンタン・サオルジュに停車。美しい谷間の駅だ。列車はさらに渓谷を上る。しばらくすると、列車の左手に別の線路が現れる。どこの路線か?と思うが、そうではない。これは「未来」の線路なのだ。
 そうこうしているうちに、列車は左手に向かって川を渡り、トンネルに入る。トンネル内なので車窓からはまったくわからないが、トンネル内で線路は大きな円を描く。そしてトンネルから抜けると、渓谷を右手に見下ろす。そしてその右側には先ほど列車が通っていた、すなわち「過去」の線路が見える。つまり、列車は今「未来」の線路を走っている。線路のループ構造が、鉄道ファンのみならず多くの人々を惹きつける理由の一つは、時間のずれを、空間のずれとしてはっきりと見せてくれるからなのかもしれない。

 やがてループ区間も過ぎ、渓谷はますます標高を上げる。もはやループにはならないものの、線路は大きなS字を描きながら山を登り続ける。11時6分、サン・ダルマ・ド・タンドに停車。ここまで相当な標高差を上り詰めてきた列車はかなりお疲れであろうが、休む間もなくS字カーブを上る。11時13分、ラ・ブリギュに停車。そしてS字カーブのトンネルを抜けると、小高い丘に小さな塔の建ったが姿を現す。11時20分、ついに列車の終点であるタンドに到着する
 ニースから約2時間も山奥に来たのだから、行き止まりなのかと思いきや、そうではない。線路はさらに北に伸びており、イタリアのクーネオに通じている。クーネオからはさらにトリノを目指すこともできる。とは言え、旅の時間も限られているので、今回はタンドで折り返すことにしよう。

 タンドの駅前からちょっと散策する。ロワイヤ川沿いの町はそれほど大きくなく、すぐに町はずれに行き着いてしまう。もちろん、あの塔へは距離的には大したことがなさそうだが、上り坂がきつそうなので、今回はやめておく。
 町をぶらぶらしていると、いつの間にか線路の近くに来ていた。コンクリート製?のアーチ橋である。私は時計と時刻表を取り出して思わず見比べる。あと10分か・・・、暑いので早く涼しいところに行きたいが、我慢する。そして、ついにその時が来た。私が先ほど乗ってきた列車が、ニースへと折り返す。そのタンド駅を出発したばかり列車が、アーチ橋をゆっくりと渡ってゆく。こんな時は、やはり電線やパンタグラフのない気動車の方が美しい。

 何かをなし終えた気がしてほっとしたのか、お腹が空いてきた。よく見ると、タンドには町の大きさに比べてレストランが多い。喉も渇いていたので頭の中がワインでいっぱいになってしまい(笑)、ワインリストを店の前に掲げるレストランにホイホイと惹きつけられる。しかし、本能に基づく?店の選択は誤っていなかった。コルクを抜かずにワインを注げるという装置(最近は日本でも手に入るらしいが、2016年当時は入手できなかったはず)に関心しつつ、白とロゼと料理を堪能。
 腹ごなしに、町はずれにあるメルヴェイユ博物館に行く。地元の考古学博物館で入場料は無料だが、ディスプレイのやり方など、意外に凝っている。

 駅に戻る。14時30分過ぎ、ニースからやって来た列車が到着。これが折り返してニース行きになる。
 14時47分、ニース行き列車が発車する。S字カーブのトンネルを下ってラ・ブリギュ、サン・ダルマ・ド・タンドに停車する。穏やかなロワイヤ川の流れは、この辺りから急になってくる。

 そして、あのループ区間に差し掛かる。今度は「未来」が下の方に見える。往きには見ることができなかったが、線路の上にある山々の威容には心打たれるものがある。こうして列車はループトンネルを抜けて山を下る。

 15時24分、フォンタン・サオルジュに停車。列車はさらに渓谷を下る。この区間は幹線道路も並走しているが、線路は道路よりも高い位置にあるので、やはり眺めがよい。
 15時38分、ブレイユ・シュル・ロワイヤに停車。時間があれば、この町にも降りてみたい。

 ヴェンティミーリアへ向かう線路と分かれると、列車は長いトンネルを抜けてソスペル、さらに長いトンネルを抜けて16時7分にレスカレーヌに停車。渓谷はパイヨン川のそれに変わる。16時23分、ハルト・ド・フォンタニルに停車。今度は学生が一斉に乗車する。パイヨン川を渡ると、16時27分にドゥラップ・カンタロンに停車。そして南に進むと、最後にヴェンティミーリアから来た線路と合流してニース・ヴィルに到着する。16時40分。

続く
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