ヨーロッパ横断鉄道旅行-第7弾(ミュンヘン→ミラノ)(3)

ノイシュヴァンシュタイン城(2)
「狂王」の夢(その2)

 バスはオーバーアマガウを出発すると北に向かう。実は先ほど見たミュンヘン-インスブルック間の路線は、ここから北東にあるムルナウで分岐して、その支線がオーバーアマガウまで伸びているのだが、バスはその支線と並行して走る。
 バスはザウルグルプで線路と分かれてさらに北上し、その後は西に進路を変える。アルプスに続く山々の間に緑の草原が広がるのどかな景色が続く。改めて気づいたのだが、このような田舎道にはほとんど信号がない。道路が交差する地点では小さなインターチェンジや環状道路になっていて、車の無駄な停車を少しでも避ける工夫が見られる。
 やがてバスは南西へと進路を変える。バンヴァルトという小さな湖を過ぎると幹線道路から分かれて南に進む。左手の山の中腹に真っ白な城が姿を現す。

 そしてバスは、ホーエンシュヴァンガウという小さな村に到着する。小さな村とは言っても、そこには小ぶりだが瀟洒なホテルが立ち並び、大型の観光バスが次々に押し寄せる場所なのである。私達はまず、そうしたホテルの1つで昼食を取る。
 昼食後、外に出てみると、村をすぐそばから見下ろしている城の存在に気付く。その名もずばりホーエンシュヴァンガウ城と言い、ルートヴィヒ2世の父・マクシミリアン2世が改築した別荘のような場所で、ルートヴィヒ2世も幼少期にここで過ごしたと言う。

 だが、私達が目指すのはこの城ではない。そこに行くためには、ホーエンシュヴァンガウ城の反対側にある山道を上らねばならない。山道を上るには、バスあるいは馬車を使うのが楽だが、バスは本数が少ない上にバス停には既に長蛇の列。馬車はさらにキャパシティが少なく、こちらも大行列だ。よって時間に制約のある私達は歩いて上るしかない・・・
 とは言え、さほどきつくはない山道を上ること20分。私の目の前には、先ほどバスから見たあの白亜の城が姿を現す。これこそルートヴィヒ2世の「作品」の中でも最高傑作であるノイシュヴァンシュタイン城である。さらに近づいてみると、造りこそ中世風だが、まだ真新しい城壁が私の目の前に聳え立つ。

 中に入るために城門へと向かう。実用面はともかく、形式美ならば非の打ちどころのない造形がそこには立ちはだかっている。門をくぐると、訪問者の心を圧する壁と、その向こうには壁画が描かれた美しい城館が聳えている。壁を上ると中庭になっていて、より眺望が開けてくる。このまま中に入ってしまいたいところだが、ここでもドイツの多くの主要観光地と同様、入場時間があらかじめ決められているから、それまで中庭で待たねばならない。自分の入場タイミングは、入口にある掲示板で知ることができる。チケットに記載された番号が表示されればOKである。

 入場を待つ間に辺りを眺めてみると、城の上の方にある渓流と、そこに架かる橋が見える。これはマリエン橋と言って、ここから眺めるノイシュヴァンシュタイン城の姿は格別らしい。残念ながら今回は時間がなくて行けなかったのだが・・・
 20分ほど中庭で待って、ようやく城の中に入る。城内も、外観に違わぬ美しい装飾に彩られている。とりわけワーグナーのオペラの名場面がいろんな部屋に描かれている。また、窓からはフォルッゲン湖とその湖畔の景色が広がる。ルートヴィヒ2世が中世騎士道の世界に生きるという自身の「夢」を実現するために17年もかけて作ったこの城には、「本物」の中世の城にあるはずの「闇」がないことに気付く。つまり、薄暗い牢獄や拷問部屋、さらには兵士や使用人のための生活空間といった、忌まわしかったり生活臭のする部分が全くないのである。ここはまさに王のためのメルヘンランドなのだ。

 この城も含めたルートヴィヒ2世の「作品」につぎ込まれた経費は多額に上り、バイエルンの国家財政を危機に至らしめた。王が生前この城に一般市民を入れることを固く禁じていたにもかかわらず、その死の直後には早くも一般市民に公開されてしまったのも、その経費を少しでも回収するためである。しかしその結果、今では世界中から私も含めてたくさんの観光客が訪れ、地元に多くの経済効果をもたらしているはずだ。王の費やした莫大な建設費用は回収できたのか気になるところである。
 この城を見ていると、単なる浪費は非難されて終わりだが、何かに徹底的にこだわった浪費は、後世からはむしろ賞賛の対象になり得るのではないかという皮肉さえ感じる。

 名残惜しい気持ちで城を出て山道を下る。村の一本道をさらに奥に進むと、これまたお洒落なホテルの先に、アルプ湖という小さな湖がある。この村で一日のんびり過ごすのも悪くないと思いつつ、いそいそとバスに戻る。

 ミュンヘンに戻ったのは19時前。ノイシュヴァンシュタイン城は曇っていたが、ここミュンヘンでは雨が降ったようで、雨上りの冷え込んだ空気が体を包む。ミュンヘン駅の地下ホームからSバーンに乗り、マリエン広場へ。こんな天気でも新市庁舎周辺はたくさんの人で賑わう。
 こんな時、日本ならば温かい鍋に熱燗といきたいところだが、ここはミュンヘンだ。残念ながらヴァイス・ブルストが売り切れていたので、スパムのような豚肉のハムとなぜかニュルンベルガーをつまみに、ミュンヘンの地ビールであるフランツィスカーナとレーベンブロイを飲む。

続く
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