シルクロード鉄道旅行-第9弾(テヘラン→イスタンブール)(14)

ハイダル・パシャ駅(1)
エスキシェヒル→イスタンブール

 屋根のない列車側のホームでは、休憩や水を求める乗客達が夕闇の中に一斉に降り立ち、混雑している。一方、隣のホームでは、天井の照明が人気のないホームを明々と照らしている。さらにその奥のホームにYHTの列車が入線してきた。
 だが停車時間は短く、ホーム上の乗客達はすぐに呼び戻され、列車は20時15分に発車する。列車はしばらくは北西に進むが、やがて北へと大きく向きを変える。

 いつもの旅ならば、列車が終点に着く間際の気持ちには複雑なものがある。早く終点を見てみたいという気持ちと、まだ旅を終わらせたくないという気持ちがぶつかってしまうのだ。しかし、今は違っていた。体力は限界に近づいていたし、夏なので早くシャワーも浴びたかった。旅のロマンは影を潜め、生理的な欲求ばかりが頭の中を支配していた。

 列車は、22時30分頃に小さな駅(駅名不明)に停車し、23時5分にはアダバザルに停車した。23時15分に発車する。ここから大きく向きを変え、西へと進む。アンカラとイスタンブールを結ぶ大きな高速道路に沿って走る。
 23時45分、イズミットを通過する。まもなく南にイズミット湾の夜景が現れる。シルクロード鉄道旅行では初めて見る海だ。再び旅のロマンが蘇ってくる。
 時刻は0時を過ぎたが、イスタンブールはもう近い。窓の外には市街地の灯りが絶えることなく続いている。イスタンブールの近郊区間に入ったのだろう。近郊型電車と何度も行き違うが、乗客の姿は少なく、回送列車も多い。駅で列車を待つ人の姿もまばらである。もう終電の時刻なのだ。
 どういうわけか、イスタンブールに近づくにつれて、列車が信号待ちで停まる頻度が増えた。停車時間はほんのわずかだが、気がはやっている私にとっては長く感じてしまう。
 やがて大きなサッカースタジアムが見えたかと思うと、列車は左に大きくカーブする。構内線が左右にずらりと広がる中を、列車はゆっくりと進む。そしてホームが現れ、ついに停まった。イスタンブールのアジア側ターミナル、ハイダル・パシャ駅だ。時刻は1時11分。

 テヘランからは約80時間、距離にして約3000km、シルクロード鉄道旅行の起点・北京から数えると、足掛け6年、約10800km(重複したり寄り道した区間を除く)の長い旅路が今終わったという感慨をかみしめる余裕が私には無かった。Cさんに別れを告げるとすぐにホームに出て、改札口に向かって歩き始めた。アンカラから列車を牽引してきた電気機関車は、なぜか前に停車している列車の最後尾に連結している。
 それにしても様子が変だ。ホームに出ている乗客の数が少な過ぎる。「どうしたのだろう?」ふと開いているドアに視線を移すと、そこには互いに抱き合い、別れを惜しむ乗客達の姿があった。良く見ると、部屋で、廊下で、そしてホーム上で、わずか3日間を共に過ごした隣人達と、時間の許す限り一緒にいようとする人々の姿があったのだ。感動した。そして自分の余裕の無さを笑った。

 改札口を抜けた先には待合室がある。まるで宮殿のような重厚な作りになっている。さすがにこの時間には人の姿はなく、がらんとしている。
 駅前には人通りがほとんどない。しばらく歩いて、ようやく大通りに出る。もちろん多くの店は閉まっているが、一部の飲食店は開いているし、トルコ名物シシ・ケバブを売る屋台がいくつもある。漂ってくるケバブの臭いがたまらない。大通りから少し入った所に、私の予約していたホテルがあった。ハイダル・パシャ駅にほど近いカドゥキョイ地区のホテルを予約したことは、大正解だった。

続く
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