シルクロード鉄道旅行-第5弾(アルマティ→シムケント)(9)

オトゥラル概観
6日目

オトゥラル

 再び青空が戻って来た。前々日と同様に、車は雲一つ無い空の下を北へと疾駆する。トゥルキスタンへ向かう道を途中で西に折れ、さらなる田舎道に入って行く。人家も対向車の姿もほとんどなく、目に見えるものは草原と馬・羊・ラクダばかりだ。しばらくして小さな田舎町に到着。町の中心部にある博物館に行く。
 ここはアル・ファラビを記念する博物館だった。アル・ファラビは10世紀に活躍したイスラム哲学者で、アリストテレスの著作などギリシャ古典をアラビア語に翻訳した人物として知られる。彼の出身地がオトゥラルであることから、この博物館が建っているらしい。館内は改装中で、シンナーの臭いがたちこめ、掃除機が騒音を放つ・・・。臭いや音を我慢しながら、展示されているアル・ファラビの著作や、オトゥラルから出土した遺物を見学する。

 町を出た車は再び田舎道に入る。しばらくして草原の真ん中に停車。車を降りると、前方に小高い丘が見える。ここがオトゥラルの遺跡である。

 オトゥラルは、タラズやトゥルキスタンと同様にシルクロードを東西・南北に結ぶルートの交差点として栄えた町だ。特に大河シルダリヤに面していたオトゥラルは、川を渡る大勢の旅人で賑ったようだ。
 しかし1218年、当時ホラズム帝国の支配下にあったこの町で悲劇が起こる。チンギス・ハーンから派遣された使節を、この町の太守が皆殺しにしてしまったのだ。この事件に激怒したチンギス・ハーンは、中央アジアへの西征を決意する。翌1219年には、モンゴル軍がオトゥラルを包囲。5ヶ月にわたる攻城戦の末、1220年オトゥラルは陥落する。町は徹底的に破壊、住民は皆殺しにされ、住民が飼っていた家畜までも全て屠られたと言う。その後、モンゴル軍がホラズム帝国をはじめとして、中央アジア・西アジア・東ヨーロッパの国々を次々と侵略したことは言うまでもない。
 その後、14世紀にオトゥラルは復興し、活気を取り戻す。1405年、中国・明王朝への遠征の途中でティムールが病死したのも、この町であった。しかし、その後シルダリヤの流れが変わり西へと遠ざかったため、オトゥラルは衰亡し、やがて廃墟となってしまった。

 オトゥラルの丘へと向かう小道を歩く。私達以外には、歩く人の姿は無い。オトゥラルの町は2つに分かれており、丘の上には王宮や貴族の屋敷が、丘の下には一般の人々の住居があった。丘の斜面には城壁の遺構が残っていて、普通の丘とは異なることをかろうじてアピールしている。丘の上に登ると、そこにも誰もいない・・・。いたるところに建物の遺構が広がる。崩れたレンガの塊が、かろうじてかつての建物の間取りを仕切っている。それでも、これらのレンガには近年の修復の手が入っている。今見ている遺構はオトゥラル復興後の15世紀以降のもので、モンゴル軍に破壊される前の遺構は、この地下にあると考えられている。地面に目を下ろすと、青い陶片が簡単に見つかる。おそらく、かつての住民が使っていた陶器の破片なのだろう。
 無人の丘の上で耳を澄ませる。だが、聞こえて来るのは風の音だけだ。市場の雑踏も、戦の雄叫びも、断末魔の声も、皆うそのようにかき消されてしまっていた。

 観光の最後にアルスタン・バブ廟に行く。アルスタン・バブは、トゥルキスタンに祀られているコジャ・アフメド・ヤサウィの師匠だ。弟子よりもはるかに地味な廟に祀られてはいるが、ここにも熱心なムスリム達が参拝にやって来る。この廟の隣には一般のムスリムの墓地もあるため、先祖の墓参りのついでに参拝する人も多いようだ。

 帰り道、道路を我が物顔に徘徊するラクダの群れに遭遇する。車が近づいてもなかなか避けようとはしない。車に慣れすぎたのか?それとも車など滅多に来ないのか?

 タラズ川で行われた戦いにより、イスラム世界に紙がもたらされた。オトゥラル出身のアル・ファラビ等が訳したギリシャ・ローマの古代文明は、紙によってイスラム世界全体に伝播し、イスラム文明を発展させた。そして、その文明がヨーロッパに逆輸入されてルネサンスが開花する。また全ユーラシアを震撼させたモンゴル軍の西征もオトゥラルを起点とする。タラズ・トゥルキスタン・オトゥラルを中心とする一帯は、まさに文明の十字路なのだと実感せずにはいられない。
 そんなことを考えているうちに、車はシムケントに戻っていた。カザフの伝統料理のレストランに入る。縁台に上がって食事するのは、中国・新疆と同じスタイルである。この日の昼食のメインは、カザフ風のワンタンだ。塩味のシンプルな味付けだが、羊や馬肉が入っていてとても美味しい。ラクダのミルク(写真左側)も初めて飲んだ。味は非常に濃く、クセがある。シムケントでの最後の食事は、満腹・満足で終わろうとしている。

続く
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オトゥラル

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