シルクロード鉄道旅行-第5弾(アルマティ→シムケント)(5)

アルマティ1→ジンギルディ
アルマティ→タラズ

 雨の降りしきるホームをぼんやりと眺めていて、ふと時計を見ると18時を過ぎていた。それからまもなくして列車が動き出す。18時5分。広い駅の構内に居並ぶ車両群が見えなくなると、列車は左に大きくカーブして北に向かう。まだアルマティの市内だが、広い野山の中を列車はゆっくりと進む。そして再び大きな左カーブ。東からやって来た線路と合流する。この線路こそ、中国からの列車を運ぶ線路なのだ。線路が合流すると、すぐにアルマティ1駅に到着。18時25分。

 アルマティ1駅を出ると、次第に建物が少なくなり、一面緑色の草に覆われた草原となる。時折、集落が島のように点在する他は、ひたすら草原の景色が続く。この景色の中で動いているものは、この列車と、線路際まで放牧されている多数の馬や牛たちだけだ。

 車掌さんがやって来る。切符とパスポートなどの身分証明書を確認した後、シーツ・タオル代を徴収する。前回、中国からの列車で払った額よりもずっと安い。国内線と国際線の違いなのだろうか?
 一連の作業が終わると、車掌さんがティーポットにお湯を入れて持ってきてくれる。これを機に、向かいの席に座るおばさんと会話を始める。だが、英語を解さないおばさんと、ロシア語を解さない私との会話は困難を極めた。おばさんの目的地がタラズであり、私の目的地がシムケントであるところまでは了解できたのだが、その先が全くダメだ・・・。一応ロシア語の旅行会話集は持ってきたのだが、ここにあるのは空港・ホテル・商店で使うフレーズばかりで、一般の人に対するフレーズが無いのだ。
 その時、おばさんが携帯電話で誰かと話し始めた。こんな草原のど真ん中で携帯電話が通じることに私が感心していると、おばさんは急に「代われ」とばかりに電話を差し出す。私は不審に思いながらも電話に出てみる。「ハロー」と言う若い男性の声がする。「うちの母が、あなたの事について知りたがっているんだけど、うまく通じなくて・・・」何とおばさんは息子に通訳をわざわざ依頼したのだった。
 この「携帯通訳」によって互いの基本情報を交わした後も、おばさんの努力はさらに続く。列車内では、食料の他にも書籍やアクセサリの訪問販売がある。おばさんは英語・ロシア語の対訳会話集をわざわざ購入したのだ。これを使った「会話」が、またしばらく続く。半日も共に過ごすことのない見知らぬ外国人とのコミュニケーションのために、これほどまでの労力を使う姿勢に私は感動した。と言うより申し訳なくなった。自分は、この旅行のためにロシア語をどれほど勉強しただろう?

 その間にも、列車は西へと走り続ける。19時27分、ジンギルディに停車。20時3分、サズに停車。緑の草原に夜の帳が下りる。
 ジャイラウ(20時38分着)、オタール(21時30分着)を過ぎて私は床に着く。時折、列車の大きな揺れに目を覚ましそうになる。
 北方の首都アスタナへ向かう線路との分岐点チュー(0時10分着)を過ぎた列車はチュー川を越え、キルギスへ向かう線路との分岐点ルゴヴォイ(2時19分着)を過ぎたに違いない。

 窓の外から差し込むまぶしい灯りに思わず目を覚ますと、時刻は4時30分を過ぎていた。窓の外には比較的大きな駅舎が見え、その脇の照明塔から強い光が差し込んでくる。時刻から考えると、ここはタラズ(4時22分着)に違いない。ふと向かいの席を見ると、おばさんの姿は既に無かった。ホームの上には、こんな時間にもかかわらず食料などを売る人々の声が大きく響き渡っている。

続く
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この記事へのコメント

伝蔵
2007年06月10日 23:05
お待ちしてました。いよいよアルマティを離れましたね。
ウルムチからの列車で、シーツ代とか払ったっけ?
それすら忘れていましたが、中国からようやくアルマティ1駅に着いて、
「ここは1駅? もうすぐ2駅だねえ」
とようやく異郷の終着駅に近づいてきた感激は今も覚えていますよ。
それにしても現地のおばさんとのコミュニケーション、本当に素敵やなあ。
それも携帯の相手、親子というのがいい。
私もサマルカンドのあるB&B(民宿風ミニホテル)に飛び込んだとき、
あるじのおっさんが、私の前でどこかに電話をかけまくって、
日本語の話せる知人に、
私との受話器通訳を頼んでいたのを思い出しました。
こういう、人々とのささやかなふれあいがあれば
ちょっと行を割いてもらえれば幸いです。
とプレッシャーをかけながら、
次回のご報告、引き続き楽しみにしております。

2007年06月12日 23:57
シーツ代、ウルムチからの列車では20元(約300円)取られましたが、今回は50テンゲ(約50円)でした。もっとも前者はナイロン袋に密封されていましたが。
昨年の夏、アルマティ1駅から2駅に向かって列車がゆっくり動く中で私も興奮したことを思い出しました。

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